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第20話 救いたい君

よく見るとここは用意してもらった自室らしかった。 シアーゼがドアへ向かう。 「あっアッシュ殿下...」 「っ!?」 シアーゼの声にファリスは思わず布団の中に隠れてしまった。 だってどんな顔で会えばいいのかわからない。 暗殺にも失敗し自害することも出来なかった自分は間抜け過ぎて、今更恥ずかしくなってくる。 部屋で2人は何か話をしているらしかったが 布団に守られてよくはわからない。 「..ファリス」 不意に近くで名前を呼ばれ身体が強張った。 アッシュの声だったからだ。 「目が覚めたんだな。 ...顔を見せてはくれないのか?」 ファリスは迷ったが、やがてゆっくりと布団から顔を出した。 といっても鼻から上しか外には出ていないが。 アッシュはホッとしたように微笑み、 床に跪きファリスを見上げた。 「本当に良かった...」 呟きながらもアッシュは泣きそうな目をした。 なんで、そこまで。 ファリスは眉間に皺を寄せ彼を睨んだ。 「...なんで助けたんだ」 自分が生きているということはこいつが助けたという事になる。 つまり余計なことをしやがってということだ。 「当然じゃないか君に死んでほしくないから...」 「なんでだよ!? 普通怒るだろ、騙した挙句殺そうとしたんだぞ...!?」 ファリスは布団から這い出て怒鳴り散らした。 意味がわからなかった。 こんな暗殺者をそんな風に言う人間なんかいない。 いるわけないと信じていた。 故にアッシュの言動の全てが不可解で、不愉快だった。 「確かに褒められたことではないが ...俺は許すよ。好きだから」 アッシュは顔を近付け真剣な眼をした。 またそんな顔をされファリスは唇を噛む。 本当の恋を知らないファリスは、 相手が話の通じない未知の生物に見えて仕方がなかった。 「ちょちょちょ、ちょっと失礼...」 2人の間に端で見ていたシアーゼが割って入った。 「えーとアッシュ殿下? ファリス様がまごうことなき男子というのは 知っておりますよね...?」 シアーゼは苦笑を浮かべながらも怖々と問うた。 アッシュは立ち上がる。 「うん。」 胸を張って答えられシアーゼは額に手を当てた。 「あ、あ〜なるほど... それでも好きというわけですね..?」 「勘違いするなよ。 ファリスだから好きになったんだ」 「ははぁ...なおタチ悪いっすね」 シアーゼは暫く額に片手を当てたまま俯きがちに何かブツブツ呟いていたがやがて顔を上げる。 「わっかりました。 殿下がファリス様に相応しいかどうかはさておき、俺達を打ち首にしたり追い出したりする 可能性は今の所少ないと考えてよろしいでしょうか」 あくまでビジネスライクで行こうと シアーゼはアッシュに向き直った。 「まあそうなるかな」 彼は即答した。 シアーゼは何度か頷き、ファリスに向き直った。 「ファリス様。こうなっては仕方ありません。 殿下には包み隠さずお話しようと思うのですが」 「な、何言ってんだよ..」 「つまり、彼があなたを好きでいる限りは とりあえず我々の身は安全です。 故にファリス様がすることと言えば その好きを持続させて頂くことくらいかな.. まことに不本意ですが」 本人を目の前にどうどうと言ってのけたシアーゼには感服だが、ファリスはそれどころではない。 アッシュは、一生好きですけど、とか言う始末だし 私どうなっちゃうの〜!?ドキドキがとまらないよ〜! 「ふっっざけんなぁぁぁ!!!!!!」 ファリスはブチ切れた。

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