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第22話 恋愛マイスター

ファリスは一頻り枕を殴りつけて部屋を転がりまわった後ようやくしずしずと泣き崩れて再び布団に潜り込んだ。 どいつもこいつも。 「....なんでそんな、生かそうとするんだよ..」 正直ファリスは死にたかった。 生きることは辛くて悲しくて、 自分なんかは生きている限り罪のない者を 傷付けることしか出来ないから。 好きだとか死んで欲しくないとか。 あんな眼で言われたのは、初めてだった。 どうしようもなく胸を内側から掻き毟られるような居た堪れなさにファリスは小さく唸った。 目の前の途方もない世界を 自分は到底受け入れられそうにない。 「....失礼!」 急に済ました声が響きファリスは呼吸を止めた。 次いでノック音が聞こえる。 この部屋だ。ファリスは布団から顔を出した。 「入りますわよ?」 見知らぬ女性の声が響きこちらの返事も待たずにドアが開いた。 ドアからひょこりと顔が覗きファリスを見つけては、まあ!、と声を零し 彼女は慌てて部屋に入ってドアを閉めた。 「泣いてらしたの?お可哀想に...」 足早ではあるが大変優雅な仕草でファリスに近寄り、どこからともなくレースのハンカチを取り出す。 ブラウンの髪の毛を縦ロールにして、黒いリボンが静かに髪にさしてあった。 薄い若草色のドレスは清楚で、かなり質のいい布を使ってあるようだ。 その事で彼女が高貴な身分なのがわかる。 一体誰なのか、ファリスは涙でぐちゃぐちゃの顔を呆然と彼女に向けた。 「わかりますわ。殿方の前では泣けませんものね。よろしいのよ、今は思い切り泣いてらして!わたくし誰にも言いませんわ」 彼女は優雅にベッドに腰掛け、聖女のような微笑みでファリスの頬をハンカチで拭った。 近くで見るとまだかなり幼い顔立ちだ。 しかしその大人びた雰囲気にファリスは圧倒されていた。 「...あ、あの...すみません..わたくしったら..」 未だにアッシュの花嫁という言葉を思い出し、 ファリスはハンカチを受けとって涙を拭った。 仕方なくここは"ファリス姫"のフリをするしかない。 「マリッジブルーというものでしょう?出会っていきなり結婚ですものね、 気に病むのも仕方ないですわ。わたくしなら発狂しちゃう」 ペラペラと喋りながら女はベッドから立ち上がり、部屋の中を歩いて行った。 「何かお召しになる? 甘いものを持ってこさせましょうか!」 それがいいわね!と妙案を思いついたようにはしゃいだ声を上げ、ドアを開けては誰かに命令していた。 それを見て思い出す。 「ファリス様はチョコレート、お好き?」 ドアを開けたままの状態で女はこちらを見てくる。 金色の瞳がキラキラと輝き、その恋する瞳は間違えようもなくアッシュと同じものだった。 「あ..はい...」 ファリスは怖々と頷いた。 彼女はアッシュの妹君、ミミィグレース王女様だ。

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