23 / 129

第23話 百戦錬磨との昼下がり

あれこれと廊下にいるらしきメイドと話した後 彼女はドアを閉め再びファリスの元に戻ってきた。 「哀しいときは甘いものが一番ですわ。 女の子ですもの」 女の子、という言葉が異様に似合う。 ファリスはアッシュの時よりも恐縮した。 彼女にばれては不味い。 しかしアッシュとは違いなんだか全てを見透かしてきそうな鋭い視線がある。 まるで舐め回されているような視線だ。 「お、恥ずかしい..ですわ、わたくしったらこんな..ミミィグレース様がいらっしゃるだなんて、思わなかったものですから...」 ファリスは病弱そうな声を出して乱れた髪を整えようと髪に触れた。 その腕を彼女に掴まれどきりと心臓が跳ね上がる。 「わたくしにやらせて!」 ミミィグレースは瞳を輝かせてそう提案した。 こうしてみると本当にまだ大人とは程遠い子どもに見える。 彼女はファリスの背後に回り、どこからともなく取り出した櫛でファリスの髪を梳き始めた。 下手に抵抗して身バレするのも怖いしファリスは大人しくしていることにした。 「本当に綺麗な金色の髪ですこと..わたくし最初に会場であなたを見かけたときから"ステキ!"って思っていましたわ。」 最初に会場で、とは舞踏会の事だろうか。 踊っている時にどこからか見ていたのかもしれない。 「そんな...恐縮ですわ」 ファリスは恥ずかしそうに眼を閉じた。 なんだかそわそわする。なんだろう、この感じ。 「だからね、あなたが自分で転けてお兄様の前に出たときは驚いちゃったわ! 意外と手段を選ばないタイプ?」 ミミィグレースの言葉に心臓が弾け飛びそうになる。 見られていたのだ。 「いや...あの...」 だらだらと冷や汗が溢れる。 ファリスの顔をミミィグレースは横から覗き込む。 「よろしいのよ。わたくし誰にも言いませんから。恋に駆け引きはつきものですものねえ」 怖々と彼女の顔を見ると ミミィグレースはうんうんわかってるよというように頷いている。 この女侮れない。 「お兄様って堅物でしょう?今まで恋のLの字も全く無かったのよ。でもあなたと踊っていたお兄様は恋していたわ。完全にえる、おー、ぶい、いーでしたわね」 ミミィグレースは再び髪を梳かし始めながらペラペラと喋る。 ファリスは余計なことを言えなくなってしまった。 「だからわたくし嬉しかったの!お兄様もやっと恋の素晴らしさに気付いたのだわって。 今までわたくしが恋人を作るたびにまるで軽蔑したように見てきていたんですもの。酷いったらないわ」 彼女がアッシュとは違い逆に恋多き女ということはシアーゼの情報で知っていた。 その時はなんとも思わなかったが、もしかしたら脅威かもしれない。 彼女は百戦錬磨なのだ。 「.....あの会場の中で、本当にあなたが一番素敵だと思ったの。お兄様もなかなか見る目があるわね。」 ミミィグレースの声が甘い色を帯び始めさらりと髪を撫でられた。 ファリスは緊張で背筋が伸びる。 そっと肩に触れられ、するりと腕が前に伸びてきた。 「....ミミィグレース様..?」 心臓が爆発しそうだった。 やばい、死ぬ。というような感じだ。 「.......あなたって可愛いわ」 百戦錬磨の甘い囁きが耳元で放たれ脳にダイレクトに響いてくる。 性別的には正しいのかもしれないが見た目は昼下がりの諸事情を通り越している。 流石にまずい、服を脱がされたらバレる。 しかし下手に抵抗しても相手は高貴な身分なのだし..! ファリスはパニックで頭が真っ白になり始めた、時だった。 「ミミィグレース様、ファリス様、 ティーセットをお持ちしました」 メイドの凛とした声が部屋に響き渡った。 ミミィグレースはぱっと手を離すと、は〜い!とご機嫌な返事をしながらドアにかけていく。 解放されファリスは倒れ込みそうになりながら はぁぁと息を吐いた。 没落寸前であった。 「お茶にいたしましょう、お姉様」 ミミィグレースはメイドにティーセットを机の上に用意させながらこちらを振り返って微笑んだ。 侮り難し、妹君よ。 ファリスは頑張って微笑みを浮かべたのだった。

ともだちにシェアしよう!