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第25話 いやなよかん

会議が終わってシアーゼは鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。 これでなんとか首は繋がった。 自分のとんでもない策略もあっさりと許されたし、これもファリス様の魅力のおかげである。 でも本当は彼の魅力なんてなくていいとも思っていた。 王子を落とす所から失敗してくれさえいれば 彼はずっと自分だけの王子様で居てくれるのに。 「まあ俺もアッシュ様に高く買われてたみたいだしいっか」 シアーゼは前向きに考えることにした。 ファリスもアッシュも、相手は高貴な身分で そもそも住む世界が違うのだ。 精一杯お見守りすること、それが従僕の務めである。 とシアーゼは思い込もうとしていた。 「おにいさんおにいさん」 風俗のキャッチのような声かけをされシアーゼはスルーしようとしたが髪の毛に触れられ立ち止まらざるを得なくなった。 振り返ると先程向かいに座っていたマルクであった。 「シアーゼです。マルク指揮官」 真顔でシアーゼは挨拶をし、髪を整えた。 マルクは青い瞳を細めて顔を近づけてくる。 「シアーゼ、ちゃん」 「舐めてんですか」 「いやいや悪い。 さっきの情報すごいね。俺の下につかない?」 さらりと勧誘されシアーゼはため息を零した。 「申し訳ないんですが俺はあくまでファリス様の従僕ですから。スパイ活動諸々もついでです」 ぐいぐいと顔を近付けられ両手で拒否を表す。 「ふうん。勿体ないなあ」 ジロジロと顔を見られシアーゼは苦笑した。 「なあ、俺たちさどっかで会ったことない?」 気付けば廊下の壁に押しやられ逃げられぬように手を突かれてそう言われる。 先日の舞踏会で彼を酔わせ情報を頂き、薬を盛って眠った後にも懐の機密文書を写させて頂いたりしたのだ。 「はぁ...この国へ来たのは初めてですが」 シラを切ったが色々バレては事である。 あの時身につけていたものは処分済みなので証拠はないし、相当酔わせたので記憶にないと思っていたがさすが腐っても防衛大臣ということか。 それともただのナンパか。 「顔が地味なのでよく言われるんですよ。 "孫に似てる"とか。」 シアーゼはあははと笑い飛ばし彼の胸に手をつき壁ドン体制から逃れようと歩き出した。 あんまり彼には関わらない方がいい気がする。 スパイスキルが警告サインを出していた。 「シアーゼちゃん」 呼び止められ、 シアーゼは仕方なく顔だけそちらに向けた。 「指揮官、俺は正直国も何も関係ないんですよ。ファリス様さえ守れればそれでいいんです。 利害が一致している限り精一杯協力させて頂きますから、ご安心ください」 薄い笑みを貼り付けてシアーゼは言い放った。 いざとなれば自分は迷いなくアッシュも彼も 惨殺するだろう事は分かっていたし 逃げる準備も抜かりなく行っている。 マルクは青い瞳を細めた。 金色の髪が日光にキラキラ光って、ファリスを思い起こさせる。 シアーゼは急に切なくなって彼にまた背を向けた。 「失礼致します」 幼き頃より、ファリス以外のものは "ファリス様ではないもの"の一括りだった。 大事かそうでないかと言うシンプルな世界で生きてきたのだ。 これからもきっとそうだと思う。 そしてこれは恋とか、そんなものじゃない。 そんな稚拙なものじゃないんだ。

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