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第26話 王子と王子
ミミィグレースに胸を指先でツンツンと突き刺されながらチクチクと嫌味を言われた。
女性を不安にさせるだなんていけませんわ、と
言ったような事である。
どうやら昼間に彼女はファリスの部屋を訪れて早速仲良くなってきたらしかった。
幸いファリス姫が実は姫ではない事に気付いていないようだったが、正直言うとあまり近寄らせたくなかった。
しかしファリスが泣いているらしかったというような言い回しをされ、罪悪感が募る。
彼女らがお茶をしている間にシアーゼから大体の状況を聞いた。
ファリスはマグルシュノワズの王子であること、幼少の頃より王の教育方針で王子に関してはデタラメな情報がその都度流され
自分達は様々な教育を受けさせられていたこと
西ソマトロアム皇国への借金、そして提案。
それに対しての王の答え。
自分がいかに恵まれた環境にいるかをまざまざと見せ付けられた気がした。
平穏無事にすくすくと育てられてきたのは、強豪国ゆえにだ。
弱小国家というだけでこんな汚れ仕事を王子がせねばならないとは。
壮絶すぎて想像も出来ない。
アッシュはファリスの部屋の前まで来たものの、どういう顔をしてどういう言葉をかければいいかわからずドアノブに手を置いたまま悩んでいた。
好きだとか言ったけど、
それだけでは彼の心を溶かしてはやれない。
戦だって始まろうとしている。
「.....突っ立ってないで入ってきたらどうだ」
部屋の中から声が聞こえた。
バレていたらしい。
アッシュは観念してそっとドアを開けた。
昼間は発狂していたが今は落ち着いているらしく、ファリスは窓辺の椅子に足と腕を組んで腰掛けていた。
月明かりに照らされた彼は息を飲むほど美しかった。
「私は女じゃないから、遠慮されても気持ち悪いだけだ」
鋭い声でファリスは言い放ち窓の外に目を向けた。
アッシュは静かにドアを閉め、
近寄れないままそこに立っていた。
「....シアーゼが、色々話してくれた」
やっとそれだけを言うと、
ファリスはふんと鼻を鳴らして笑った。
「ああ、そう。で?可哀想に思った?」
酷く自虐的な表情を浮かべられアッシュは何も言えないのが歯痒かった。
「...いいんだよそんな事思わなくて。
あんたはみんなに愛されてる王子様なんだろ?
汚いものも見る必要も知る必要もない。」
窓の外に眼を向けたままファリスは長い髪を耳にかけた。
まるで違う世界で生きていると、そんな風に言われた気がしてアッシュは彼に近寄った。
「...そうだな、俺は無知だ。何も知らない
でも...だから俺は、ファリスの事が知りたい」
そんな風に最初から決め付けられて距離を置かれるのは嫌だった。
アッシュは彼のすぐ側まで来て、彼を見下ろした。
「..知ってどうすんだよ。私の事嫌いになるだけだぞ」
「ならない」
「っなんで、!」
ファリスはこちらを見上げ、
噛み付くような視線をぶつけてくる。
「そう...言い切れるんだよ....?」
弾丸のような目は、泣きそうだった。
アッシュは抱きしめたくて堪らなくなったが
我慢して両手を握りしめる。
「嫌いになんかならない...ファリス。
君が好きだから」
最初に会った時から、その弾丸に射抜かれた。
突き放すような、それでも縋るような。
死んでもいいと言いながら生きたいを押し通す。
戦場にいるような。刹那的で程遠い、美しい瞳。
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