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第33話 敏腕従僕の使いかた

「ふふふふ.....フラグ」 ベランダという名の庭園に立ち尽くすアッシュの後ろ姿を見やり、シアーゼは苦笑した。 地面に触れると、わずかなくぼみがありそこを引くと 真四角に芝生とその下の板が外れた。 開いた穴からは屋根が見える。 シアーゼはその穴に滑り込み、 下の屋根に降り立った。板を元に戻し、 その場に座り込んでため息をこぼす。 「はあ....わかってはいても辛いもんですねぇ」 体育座りのように膝を抱える。 屋根とベランダに挟まれた狭い空間からは建物の向こうに海がちらちらと見えた。 自分とファリスは同じ傷を抱えたもの同士で 傷を分かち合うことは出来ても、癒すことは出来ない。 自分は出来ることは、もしアッシュがファリスにとって少しでも命に関わることを仕出かしたら 迅速に首を跳ねる事くらいなのだ。 しかしその仕事はおそらくする事はないだろう。 「えっ?シアーゼちゃん?」 不意に声が聞こえ、シアーゼは声のした方を見た。 近くの窓からマルクが顔を出していた。 窓と言っても這いつくばってようやく通れるような小窓である。 この小窓は使用人室の廊下に続いている。 内心かなり驚いていたがシアーゼは笑みを浮かべた。 「こんばんは。奇遇ですねえ」 何故防衛大臣の彼が使用人室の窓から出てくるのか。 まさか尾けられていたわけではあるまい。 いろいろ考えるが悟られないように シアーゼはぼんやり黄昏ているふりをした。 「こんな所で何してんの?」 マルクは窓枠に肘をついてこちらを見上げてくる。 面倒臭い事になったとシアーゼは心の中でため息をついた。 「マルク指揮官こそ。何故使用人室へ?」 「へっへーヒミツ」 マルクは悪戯っぽくウインクをした。 大方メイドとでもお楽しみなのだろう。 「で?シアーゼちゃんは?」 「....俺は、こういう狭い所が落ち着くんですよ。 せっかく見つけた秘密基地だったのに」 シアーゼはそう言ってまた海の方を見た。 ふうん、とマルクは零した。 さっさとメイドの部屋でもなんでも行って欲しかった。 「俺もそっちいっていい?」 「はぁ?ヤですよただでさえ狭いんですから。 こないでください」 シアーゼは冷たく言ったが、 気付けば窓から彼の上半身は飛び出ていた。 やべえ引っかかる引っかかる、と無様に暴れながらもマルクは屋根の上に這い出てきた。 「こんな狭いとこよく通れたな....っ! 俺も通れたけ、ど!」 屋根は狭いので2人がギリギリである。 落ちたら怪我では済まないだろう。 「ちょっと...話聞いてた?」 ずかずかと隣に座られ、シアーゼは彼から少しでも体を離そうと落ちそうなギリギリの所まで移動する。

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