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第36話 わたしと彼の事情
「..ということでファリス様、
大変心苦しい上にかなり後ろ髪引かれますが
暫くここを離れなければならなくなりました」
最悪である。
シアーゼの言葉にファリスは頭が真っ白になった。
「....や、やだ....」
思わず呟いてしまい、シアーゼの腕を掴む。
猛烈にアッシュと顔を合わせたくない今、
ファリスの不安は増すばかりだった。
ここでシアーゼまでいなくなってしまったら
いよいよファリスは完全なるアウェイである。
「私も行く...」
「ダメですよファリス様。
大変不本意ながら今のところはアッシュ殿下の側が一番安全ですからね..俺のためにもここにいてください」
「シアーゼ...っ」
縋るように見つめてもシアーゼは苦笑をする。
困らせているのはわかっているが、
嫌で仕方なかった。
「...すぐ戻ってきますから...、ファリス様」
絶望だ。
陸の孤島の、更に猛獣(?)のいる檻の中に
閉じ込められてしまう感覚である。
部屋にいると、ミミィグレースが遊びに来てひやひやしなければならないし
かといってそのままの格好で城の中を
ウロウロしてもすぐに使用人やアッシュに
見つかってしまうので
ファリスはメイドの服を盗んできて、それを着込んでは裏庭の掃除をするふりをして空を仰いでいた。
「....はあ..私は一体どうしたというんだよ...」
今までこんなに1人になるのが嫌だったことはない。
正確には1人ではないし、文字通り"1人"になってしまったことは今まで多々あるが
こんなに胸がざわついてしまうのは初めてだった。
あの夜からアッシュの顔や言葉が度々フラッシュバックして、
その度に何故だか暴れ出したくなってしまうのだ。
そんな異常事態を押さえ込むのに必死で、何か
大事なものを見逃してしまいそうで怖いのだ。
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