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第38話 想う人
「......西ソマトロアムが攻める前に、
マグルシュノワズを先に侵略しようというのが俺の考えだ。
そのためにシアーゼを連れて行く。」
マルクはファリスから手を離し、
大臣らしい表情で業務的に呟いた。
「あんたらがあの国からどういう扱いを受けてきたかは知らないよ。
けど、あんたが王子であることに変わりはない。
あんたがどういう考えを持っていようと下の者は付いていかなくちゃならない
...それを忘れんな」
人差し指で胸を突かれ、ファリスは唇を噛んだ。
自分の考えは自分だけのものではない。
マルクの言葉に、自分の身勝手さを感じさせられるがファリスは何も言えなかった。
「失礼な口を聞き申し訳ありませんでした。」
頭を下げマルクはこちらに背を向けて歩き出した。
その後ろ姿を見つめて、
ファリスは泣きそうになってしまった。
自分は多分、すごく情けないんだ。
「....ま、マルク....さ、ん....!」
思わず彼を呼び止めてしまうと、
マルクは足を止め顔だけをこちらに向けた。
「シアーゼは...シアーゼは凄く...いつも...
無理して...私がこんなだから...いつも知らない
ところで傷付いてたりして...、だから...あの...、」
自分のためにいつもシアーゼは動いてくれていた。
知らない間に知らない怪我をして、
あの国に帰っても狭い部屋で酷い扱いを受けながらも
ヤケを起こしてもにこにこして相手をしてくれていた。
ファリスは思わず涙が溢れてきてしまって、
恥ずかしくて頭を下げた。
「っ...シアーゼを..よろしく、お願いします」
それでも、シアーゼには自由になって欲しいと
願う事は変わりない。
願って願ってやまない。
それでも自分が存在している限りは、
彼に自由などないから。
地面を見つめていると
マルクはこちらに歩いてきて、
しゃがみ込んで下から覗き込んできた。
「ああ....絶対守りますよ」
その返事に、本当に心の底から安堵してしまった。
彼の真剣な眼差しを見つめ返し、
ファリスは乱雑に涙を拭った。
「.....アッシュ殿下のこと頼みます」
ファリスが何かを言う前に
マルクは去って行ってしまった。
マルクも、シアーゼも、...アッシュも。
なんだって他人のためにあんなに必死になるんだよ。
意味がわからないし、バカげてると思ったりもする。
しかしファリスは何故か、胸が熱くなるのを感じるのだった。
「............心で、想う..」
アッシュの言葉がまたフラッシュバックし、
初めてその意味を噛み締めようとしている自分がいた。
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