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第39話 馬車の中で
それから、マルク率いる軍とシアーゼは
マグルシュノワズへと旅立っていった。
そこまで派手な侵略ではない上に大々的なものではないため比較的少人数での静かな出国であったが、
ファリスはその日は1日、
数少ないマグルシュノワズの想い出を歩いていた。
馬車に揺られながらマルクは腕を組み無言でいた。
体を割と強めの力で揺さぶられ眉根を寄せる。
「あなた本当にバカですよ..っ!大馬鹿!」
シアーゼに詰られ、マルクは目を閉じて唸った。
つい、とはいえ一応王子で
しかも彼の主人に対して色々言ってしまったのだ。
そのことがバレてしまい今こうしてお叱りを受けているというわけである。
「だって腹たったんだもん...」
「...じゃないでしょーがっ!ファリスさまは
見た目通り繊細なんですよっ!?」
「そうかなあ..」
シアーゼの言葉に苦笑していると、彼は急に大人しくなって
マルクの服を掴んだまま肩を震わせ始める。
「...っなんで、
なんで俺のこと...言っちゃうんですか...」
泣いているのか、とマルクは不意に罪悪感に苛まれて彼の肩におずおずと触れた。
2人のただならぬ関係は薄々勘付いていたのだが、ここまで彼が思っているとは思わなかった。
「俺のことなんか...、
あの人は考えなくていいんですよ...」
「.....シアーゼちゃん...それは違うよ」
抱き寄せてやるように彼の肩を撫でる。
「俺たちは王族とか家臣とかそういうのの以前に人間だから、大事にするってことはお互い想い合うってことだ。
無事を想い、いつも笑ってくれるようにと想い、自由を...想う。
だからファリス様も俺にお前のことよろしくっていったんだ」
マルクの言葉をシアーゼは大人しく聞いていた。
そういう風にしおらしくされるとなんだか調子が狂うし、なんだか面白くなくてマルクは彼の顔を覗き込んだ。
涙は流れてはいなかったが彼の濡れた瞳と目が合って、どきりと心臓が高鳴る。
「...いがいと、まともな思考をお持ちだったんですね」
「かわいくないこと言うねーシアーゼちゃん」
悪態を吐いた彼の頬を人差し指で突いてやった。
シアーゼは少し考えるように口をへの字に結んでいる。
「...俺は、ファリス様にあんたを守るって約束したからそれを全うする...けどね、
本当は約束しなくたって俺は俺でシアーゼちゃんを守りたいから。」
彼の頭を撫でて、前髪に口付けながら呟いてみた。
シアーゼは眉根を寄せて、こちらをジィっと見つめてくる。
「..............多分俺の方が強いですから、ご心配なく」
真顔でそう返されてしまい、するりと腕の中から彼は逃げていった。
自分でも驚くくらい、必死になってしまっていた。
全く自分はどうしたというのだろう。
しかし不思議と馬車の端っこで蹲って、
こっちこないでくださいよ、と威嚇し始める彼を見ていると
悪い気もしないのは何故だろう。
なんでかなあ。ねえ、シアーゼちゃん?
「知らないですよっ!!!」
「あ...やっぱり」
「ッチ...それもばれたか...」
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