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第46話 怪我の功名
軍医には中将を見てもらい、
アッシュは城内のかかりつけ医の元で治療を受けた。
アッシュ様がお怪我とは珍しいとかかりつけ医の老爺は慌てていたが
マルクが帰ってきたら大爆笑されることだろう。
幸い傷は深くはなかったが、
暫くは安静にとのことだった。
医務室を後にして廊下に出ると、
ドレス姿に戻っているファリスが壁に背を預けてスカートの部分を握りしめて立っていた。
なんだか廊下に立たされている学生のようだ。
「....よお」
真顔のまま姿とは似つかない挨拶をしてくる。
アッシュは彼に歩み寄った。
ファリスはうろうろと視線を彷徨わせた後、
壁から離れた。
「その...ごめん。
私のせいで...怒られたし...怪我...」
小さく頭を下げられ、
そのしおらしさにアッシュは思わず笑ってしまった。
「気にするな。」
そう言って頭を撫でてやると
ファリスは珍しくしてやられていた。
「...いろいろ..考えてたら煮詰まっちゃって...
それで、演習してるの見たら
身体を動かしたくなったというか...
戦いたくなったというか..」
「成る程。けど次は真剣じゃなく木刀で頼むよ」
アッシュの言葉にファリスは
ようやくこちらを睨んできた。
「私は...っ、みんなのために...なにが出来るかとか...考えたけど、全然思いつかなくて...!
それなのにこんな迷惑かけてしまって..、
戦争だって、私の、せいで...」
ファリスは言葉を詰まらせて、俯いた。
ここ数日おとなしいと思ったら
そんなことを考えていたのか。
「.....お前のこと...傷付けてばかりだ」
泣きそうな声を出す彼は、弱々しくて
さっきの仮面騎士とは別人のようだった。
「..1人の力で世界を変えるのは難しい。
それは自分の世界もそうだよ。
1人で真剣に考えるのも大事だが...
誰かに救いを求めても、悪いことではないよ」
ファリスの頬を撫でると、彼は迷うような眼でこちらを見てきた。
涙で濡れる緑色の瞳は、縋っているようでもある。
「私は...私がどうしたいかわからないから..、
でも..私を想ってくれる人たちのために何かできないか考えなきゃいけないと、思ったんだ」
たった1人で戦場に立っているような眼は、
弱々しく輝いていたが以前にも増して美しいと思った。
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