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第47話 翻弄される王子様
「.....だから..その...酷いこと言ってごめん」
酷いこと。
アッシュは一瞬考えて、あの夜のことだろうと思い至った。
自由になりたくないと、彼は言った。
確かにすごく淋しくて悲しくて、
どうしてやりようもない世界で彼は話していたから
アッシュもアッシュなりにここ数日考えてはいたのだ。
「ファリス。俺はさっき君が本気でぶつかってきてくれて嬉しかったよ。正直に楽しいと思った」
ファリスは複雑な表情で下から見上げてくるのでアッシュはしゃがみ込んで彼を見上げた。
「君がしたくてしたこと、だったからかな」
「.....でも怪我させた。
私は、善悪の区別を的確に判断できるほど綺麗な人間じゃないから..間違ってばかりなんだ...」
ファリスは片目をこすって、眉間に皺を寄せて泣くのを我慢しているようだった。
「..そうだな..だが俺だってまだ経験が足りず
間違うことはいっぱいある。」
この世にはもっと汚い連中は山ほどいるだろう。
善悪に正しい判断など正直な所誰も出来ないだろう。
それでも人はもがきながら、
より良い道を模索して進んでいかなければならない。
「君がもし、後から自分であれは間違っていたって悩むような事をしてしまいそうなら俺が止めるよ。
だから俺がそうなった時、君が止めてくれ」
腕を伸ばして、彼の頬に触れる。
白い頬はみるみるうちに赤くなっていく。
「...っだから、なんで、私なんだよ...っ」
怒っているのか照れているのかアッシュにはわからなかったが、
そんな風になる彼が可愛く思えてしまってついにこにこと笑ってしまう。
「俺と互角に戦えるから。」
ファリスは不満そうに口を尖らせるがなにも言わなかったので
アッシュは立ち上がりまた彼の頬に口付けた。
「あと、君が好きだから」
そう言って、殴られると思い身構えたが
ファリスは以外とおとなしくしていた。
頬を染めたままこちらを涙で滲んだ瞳で睨んでくる。
「.....ばっかじゃねえの」
ファリスはぼそりと小声で呟き、足音も立てずに幽霊のように廊下を歩いて行く。
時が止まったかのように、彼の表情と台詞がなんども繰り返され
アッシュは追いかけるのを忘れてしまった。
彼の薄い水色のドレスがどこに行ったのかわからなくなった頃ようやくアッシュはよろよろと壁に手をつく。
「....え...?..え?」
ドキドキと心臓が脈を早め、
なんだか口元が緩んでしまう。
どういう意味なのかまるでわからなかったが、
なんだか今までの彼とは違う気がした。
恋というものは全く、
なんでこんなに翻弄されるのか。
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