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第50話 屋根を歩く理由

「ふふふ、あなたってやっぱり面白いわ。 いえ悪い意味ではないのよ。 おしとやかな方だと思えば以外と勇気があるというか... 今度は中将様を吹っ飛ばしたんでしょう?」 「いっ...そ、その...」 「よろしくてよ。 こんな時代ですもの、女の子も逞しくなくてはね わたくしそれを聞いてなんだかすごく嬉しかったの!あの方いつも威張っていらっしゃるから...」 ミミィグレースは両手を合わせてはしゃいでいた。 ひやひやしながらファリスは笑顔を崩さぬよう努力をする。 「..お恥ずかしいですわ...それに、 アッシュ様を怪我させてしまって」 「あらいいのよ。 お兄様ったら昔から大人しくしてらして、 わたくしの方が絆創膏だらけでしたのよ。 でもお兄様はお強いでしょう?」 「そうですね..負けそうになりました」 いやあれはほぼ負けていた。 これでアッシュに勝てなかったのは2回目である。 それが何故なのかが全くわからない。 実力も技量も、確実に自分のほうが上なはずなのに。 何故か肝心な時に力が抜けてしまう。 悔しいのは悔しい、けれど不思議と 妙に落ち着いた心持ちでいられるのは何故なのだろう。 「だから屋根を歩いてらしたの?」 ミミィグレースに見つめられ、隙のない金色の瞳に思わず言葉を詰まらせた。 「...どうなのでしょう...なんだか...、 なんだか落ち着かなくて」 ファリスは服の上から両手で胸を押さえながら 俯いて呟いた。 「...アッシュ様を前にすると、 いつも通りでいられなくて..1人で部屋にいると 彼の事ばかり考えて落ち着かないのです」 思わず思ったことを口にしてしまい、ファリスははっとなり顔を上げた。 隣を見るとミミィグレースは目を大きく見開き口元は笑い出しそうなのをこらえているのか泣きそうなのか、とにかく複雑な顔をしていた。 そしてファリスの両肩を勢いよく掴んでくる。

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