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第52話 君を想っていたら

昼間の騒ぎを心配する両親に有る事無い事言ってなんとか安心させ、アッシュはため息をつきながら自室へ戻ってきていた。 戦闘で疲れたのか、ファリスはいつにも増して 妙に大人しくにこりともせずに食事を摂っては さっさと席を立ってしまった。 何か勘に触ることでもしてしまったのかと 無駄に落ち込んで、 公務が全く捗らなかったのだ。 「やっぱりほっぺにチューがよくなかったのか...唇じゃないからいいとかそういう問題じゃないよな...うん...まずは手を繋ぐ所からだよな...」 アッシュはぶつぶつ呟きながらも真っ暗なままの部屋を進み広く大きな窓に近付いた。 月明かりが差し込み、町の灯が揺らめいている。 誰かに恋をし、何に変えても守りたいと思ったのは初めてで。 しかもその相手は自分を殺そうとした暗殺者で、男で、今まさに滅びようとしている国の王子で。 普通ではないことはわかっている。 それでも、彼に惹かれる。無性に。 「.....ファリス」 その名前を口に出すと、胸が締め付けられる。 幸せな気分にもなるのだが、その身体を抱きしめたくて、声を聞きたくて堪らなくなってしまうから。 アッシュは苦笑して窓にカーテンを引いた。 「....呼んだか?」 不意に部屋に声が響きアッシュは勢いよく振り返った。 いつの間にか、 部屋の真ん中に仮面騎士が立っていた。 あの謎のお面をつけて、髪を1つに纏め、 白いシャツと黒いジャケットとブーツ。 武器こそ持っていなかったが、 三銃士のような格好の仮面騎士はこちらに近寄ってくる。 「ふぁ、ファリス....?」 ずかずかとその不気味なお面が近づいて来るのでアッシュは思わず後退りやがて窓に背中がぶつかった。 それでも彼は歩みを止めず、 体が触れ合いそうな距離で彼は止まった。

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