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第53話 ツンな王子がデレる時
「アッシュ。私は、汚いぞ。
人を沢山殺したし、嘘もいっぱいついたし、
誰にでも足を開いていたこともある。
変な病気も持ってるかもしれねえ。」
仮面で表情はわからなかったが、
アッシュは黙ってその仮面の向こうにある
エメラルドグリーンの瞳を見つめていた。
「口だって悪いし、酒癖も悪い..らしいし
正直自分で自分のいいところを上げろって言われても、わかんないくらいで
本当は、
誰かに愛される資格なんてないんだ...と思う」
彼は、想像も出来ないような環境で生きてきた。
分かっているが、きっとそれを体験したら
とても自分を保てないかもしれない。
だがアッシュは、それでも彼に触れたくて、
疼く身体を必死に抑えていた。
そんな彼だからこそ、全部抱きしめて、
やりたいのかもしれない。
「....もしかしたら..
だれかを好きになる資格もないかもしれない。
でも....私は....さ」
ファリスは俯いた後、
仮面の仕掛けを発動させた。
真っ二つに割れた仮面は静かな音を立てて
床に落ち、美しいエメラルドグリーンの瞳が
こちらをじっと見つめていた。
「お前が好きだ」
真剣な瞳で呟かれアッシュはその瞳に吸い込まれそうな感覚に陥っていた。
しかしその言葉の意味が脳に届いた時、
アッシュは頭が真っ白になった。
「..........え?」
気付けばファリスに壁ドンされている。
彼の温度が伝わってきて、アッシュは身体が
強張り顔が熱くなっていくのを感じた。
「え?え?why?」
変な汗が背中を伝い始める。
好き????
今お前が好きだって言いました????
どういう顔をしていいのか分からず
なぜか泣きそうになる。
ファリスは深くため息を零した。
「なんだよその反応...傷付くわ...」
「いやいやいや、だって、え?ちょっと待って
本当にわかんない」
「わかれよ。好きだつってんだろ」
「チャラいチャラい無理!意味わかんない!」
ギャルのように喚きながらアッシュは逃げようとした。
今までめちゃくちゃツンツンしてた上に昼間は
割と本気で殺そうとしてきたのに。
恋愛初心者に爆弾低気圧並みの寒暖差の激しい
ツンデレは扱いきれなかった。
しかしファリスに凄まじい力で窓に両手を
押さえ付けられ動けなくなった。
「....嫌なら全力で抵抗しろよ。
私だって、は..初めて...だれかのこと好きになったんだから...ちょっとテンパってんだよ..っ」
ファリスも顔を赤くしながら眉根を寄せて呟いてくる。
そんな顔をされると、
色々自分が保てなくなりそうでアッシュは咄嗟に目を閉じた。
「...嫌、嫌じゃないけどっ...!」
「じゃあいいんだな?」
「なっなにが...!?」
「せっくすしよーぜって言ってんだよ」
「は、はははははい???せっ....」
アッシュは目を見開いたが、
彼の真面目な顔に心臓が破裂しそうだった。
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