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第54話 心の準備

そんな、急に心の準備が...! 窓にのめり込むように横を向いて必死に 彼から距離を取ろうとしていると やがてファリスは小さくため息をついて身体を離した。 「.....ごめん、なんか..、 どうしたらいいかわからなくて...」 ファリスはこちらに背を向けて、 俯向くようにまたため息を零している。 泣いているのか目を擦っているような彼に、 アッシュは罪悪感を感じてしまう。 「......本当に、俺のこと...好きになってくれたのか...?」 アッシュは窓に張り付いたまま彼の背中に問いかけた。 一人きりの世界を生きているような彼が、 本当に自分を好いてくれているとしたなら。 それは、凄く、嬉しいことで。 だが夢のような話だと思っていた。 何度もそうなればいいとは思ったが、 実際はありえない未来だと。 しかしファリスは小さく頷く。 「........迷惑...だったよな...」 去ってしまいそうな彼に 思わずアッシュは彼に手を伸ばしていた。 「そんなわけないだろ....!」 ずっとずっと触れたかった。 抱きしめたかった。 彼の細い身体を後ろから抱きしめ、髪に顔を埋める。 「君が本当に...俺のことを好きだと思ってくれているなら...こんなに嬉しいことはない...っ」 一体どのタイミングで、 自分のどこにそう感じてくれたのか、 それも気になるが、今は彼が腕の中にいるということが只管に嬉しくて。 アッシュは気付けば泣いていた。 ファリスはこちらを振り返り、呆れたように苦笑した。 「何泣いてんだよ、バカだな...」 「だって...夢みたいで...っ」 「ジョニーデップに会った女子かよ」 ファリスは言いながら、 アッシュの頬に触れて涙を拭ってくる。 その温度も、柔らかな指先も、 愛しくて。愛しくて。 アッシュは泣きながら、 彼の体をめちゃくちゃに抱きしめた。 抱きしめて、抱きしめ続けて、 やがて殴られた...。

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