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第61話 何かの始まり。

「ファリス...っ! よかった...居なくなってたから...」 「......おう」 自室のシャワールームから出た所で アッシュに突撃されファリスは髪から水滴を滴らせながら彼に抱きしめられる羽目になった。 「髪乾かしたいからどけって! 寧ろお前も入ってこいっ」 ファリスは何故か顔が熱くなるのを感じて アッシュを引き剥がすとシャワールームに押し込めた。 「...ご、ごめん...出て行ったのかと思って」 ドア一枚向こうのシャワールームから声が聞こえる。 ファリスはドアに背を預けて 頭に乗せていたタオルで髪を拭き始めた。 出て行く、か。その言葉に苦笑した。 「アッシュ...正直私はお前みたいな綺麗な人間、側にいるだけで傷付けるかもしんねえって思うから...」 ドア一枚挟んで向こう側でアッシュがどんな顔をしているのかわからない。 正直今だって、まさか探しに来てくれるとは思っていなかったし。 「思い出作りに一発ヤッて消えようかと思ったんだけどな」 「ヤリ捨てですか...」 「....お前にはバレちゃうか」 本当はそれは昨日の段階で思っていたことで 今は消えようという気は不思議とないのだけれど。 アッシュが受け入れてくれたからかもしれない。 「...その、俺も誰かを好きになったのは初めてだから、ファリスのためにしてやれることがなんなのか分からないし ..あんまり、かっこよくエスコート出来なくて..」 ファリスは昨日のテンパっていたアッシュを思い出して、思わず吹き出してしまった。 しかし彼にばれると傷付けるかと、声を殺して笑った。 「でも、君のそばにいたい。 君の、悲しいことや辛いことを俺にも教えて欲しい 側にいたいんだ」 アッシュの声に心臓が高鳴って、 頬が熱くなるのを感じた。 「......"俺は結婚したいんだ"って言葉の意味、 今なら少しわかる気がする」 ぼそりと小さな声で呟く。 あの時自分は、独りだった。 独りでいるのが当然だと思ったし それでも誰かに必要とされたくて、もがいていた。 ただ、側にいるという感覚がわからなくて 使って使われるような関係を探していたけれど。 今はなんとなく、一緒にいるだけで心が満たされるという事がどんなことなのかがわかった気がした。 「やっぱムカつくよお前」 ファリスは自然と笑ってしまっていた。 こんなにも、気持ち悪いくらい 心が暖かかったことがあっただろうか。

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