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第62話 笑って

ゆっくりとドアが開き、 不安げな表情のアッシュが覗き込んでくる。 その様がおかしくて、ファリスはますます笑ってしまう。 「あっははは!なんて顔してんだよ」 ファリスが笑い声をあげると、 アッシュは驚いたように目を見開いている。 「....わ..笑ってる.....」 何か呟いているアッシュを半分隠しているドアを開け放った。 「何か文句が?」 「い、いや...初めて見たから......」 どぎまぎしているアッシュにため息を零して、 片眉を上げて笑って見せた。 そういえば彼の前で爆笑したのは初めてかもしれない。 「.....いなくなんないよ。 お前が私を必要としなくなる日まで」 「....一生そんな日来ないと思うけど」 「おっ言ったなぁ〜」 少しだけ、 生きていることの意味が見えた気がしているのだ。 彼の腕に触れて胸に埋まって、鼓動の音を聞いていると そこにいてもいいと言われているようで。 アッシュの手が濡れた髪に触れてくる。 やがて大きな掌に頬を包まれてファリスは その金色の瞳を見上げた。 「もっと笑ってよファリス」 「じゃあなんか面白いこと言って」 「........ふ」 「布団が吹っ飛んだとかいうなよ」 「えっ!?エスパー!?」 「なんでだよーばかだなぁ、ははっあはははっ」 間近に迫る戦争の気配を感じつつ、 2人の初めての恋は、ゆっくりと動き出していく。

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