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第64話 私情

謁見室のシーンとした空間にすすり泣く声が響く。 剣で空中を斬り、シアーゼは微笑んだ。 「裏切ってなんていませんよ。 俺は産まれた時から、ファリス様の従僕なんですからね」 シアーゼはそう言い、縄でぐるぐる巻きにされて焦ったように脂汗を浮かべる王と 怯えたように涙を流す妃の2人を見下ろした。 弱小国家マグルシュノワズは瞬く間にリゼエッタ軍に占拠された。 地元ヤンキー連合のような 粗末なマグルシュノワズ軍も城の衛兵も ほとんど切り込み隊長の准将が1人で伸してしまい後に続くものたちは皆観光にでも来たようにだらだらと侵略を進めたものだ。 「それにいずれはこうなる運命だったんですよ。よくわからないムキムキの男に殺されるより 見知った可憐な青年に引導を渡される方が 良い旅立ちになりそうじゃありません?」 「ぐぐ....確かにそうだな....諦めるとしよう。 だが最後に1つだけ.....ファリスを頼んだぞ」 「ファリスを....あの子をどうか....わたくしたちの大切なファリスを...」 王と妃は身を寄せ合って泣き崩れ始めた。 シアーゼはほとほと呆れてしまって天井を仰いでは剣を肩に担いだ。 「今更どの口が言ってるんですか.... 同情を買おうとしてもカンに触るだけです。 楽に死にたいなら口を閉じなさい」 大切な、などとよく言えたものだ。 今でさえ助かるための道具に使っているではないか。 もう我慢の限界だ。 シアーゼは蓄えた殺気を放ちながら 片足を半歩引き剣を肩に担いだまま構えた。 するといきなりドアの開く音が飛び込んできた。 「いたいた!シアーゼちゃん! いないと思ったらいつの間にこんなとこに!」 誰かがドタバタと走ってくる。 シアーゼは眉根を寄せて小さく息を吐いた。

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