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第67話 君の辛い横顔

「なんだここ、暗っ!」 不意に声が聞こえ顔を上げる。 部屋の入り口にマルクが立っていた。 全く予知できなかったし気配も感じられなかったため心臓が驚き騒いでいる。 「ちょ...勝手に入ってこないでくださいよ、 ただでさえ狭いんですから」 「このやり取り二回目だね」 マルクはにこにこしながらもずかずかと入ってくる。 薄暗い空間はまずいと思いシアーゼは慌てて明かりをつけた。 「LEDか!意外とハイテクなのね」 「よくここがわかりましたね...なんか気持ち悪いです」 「失礼だなぁ。心配になって追っかけてきたのに。この指揮官自ら!」 マルクはそう言って自分の胸に片手を当て、 偉そうな人風の態度をとった。 その意味のわからなさに、なんですそれ、と思わず笑ってしまう。 「....泣いてるのかと思った」 マルクはそう言いながら、目を細めた。 何を考えられているのかわからなかったが シアーゼは、はあと息を吐いた。 「バカ言わないでください。俺が演技以外でガチ泣きしたのは生まれた時とファリス様が処女捨てた時くらいですよ」 「マジか.....」 マルクは若干引いているようだったが、シアーゼは気にせずに部屋に置いてある唯一の家具である 固いベッドに腰掛けた。 「.....すみません。さっきは取り乱しました」 ここへは、侵略という目的で連れてこられているのに思いっきり私情に走ってしまった。 今は少し反省しているが、また彼らを前にするとどうにかなってしまうかもしれない。 マルクは腕を組んで、何か考えるように唸った。 「んー....俺はね、シアーゼちゃん。 誰が一番悪いとかは決められないけど、 1人で抱え込む君は放っておけない」 「...何の話ですか?」 「ファリス様のためにって、殺そうとしたりだとか。危ない敵地にスパイしに行ったり 大国の防衛大臣ナンパして一服盛ったり そうやって1人でいるのはかっこよくて強いかもしんないけどね、見てる方は辛いんだわ」 マルクは近寄ってきて、髪に触れてくる。 辛い? 彼は一体何を言っているというのだろう。 長くしている前髪を掻き分けられそうになり、 シアーゼは彼の手を払いのけた。 「それはあなたの事ですか?だったらどうぞお構いなく。 俺はファリス様さえいてくれればそれで良いんです」 そう、彼さえいてくれるならばそれでいいのだ。 でもそれは、恋愛だとかそんなものでは決してない。 自分は従者で、召使で、彼の"物"なのだ。

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