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第68話 あなたのためだけの存在

マルクは複雑そうな顔をしていた。 シアーゼは不意に悟って口元を歪めた。 「俺をここに連れてきた理由はそういう事ですか? 俺がファリス様とアッシュ殿下の邪魔をするとでも? …生憎立場くらい弁えてますので、ファリス様が誰とご結婚されても俺が口を挟めたことではありませんし」 「……。」 マルクは微妙な表情のままでいたが、シアーゼの頭の中はリゼエッタに残してきたファリスのことでいっぱいだった。 おそらく彼は、自分では気付いていないようだが アッシュ殿下を特別に思い始めているだろう。 自分が不在の間に彼らは良い感じになっているのかもしれない。 それでも自分がとやかく言える立場ではない、とシアーゼは割り切っているつもりだった。 感情なんか蹴り上げて、素直に祝福するし もしも邪魔だと言われれば、…。 「俺は…ファリス様に仕えるために産まれてこさせられたんです。生きる意味は全てファリス様にある ……ただ、」 この先も、ファリスを守ってくれる人はいくらでも現れるだろう。 アッシュだってあの様子では命を賭して守るに違いない。 だが彼は優しいから、もし自分が、自分との薄汚れた歴史が邪魔になっても切り離せないのではないだろうかと。 その時自分はどうするのだろう、とシアーゼは恐怖しているのだ。 「ファリス様に必要とされなくなったら…俺はどうやって……」 考えると辛くて重くて、 シアーゼは思わず両手で顔を覆ってしまった。 「シアーゼちゃん…」 マルクが隣に座り肩を掴んでくる。 シアーゼはまた自分が取り乱していることに気付いて ギュッと唇を噛んでは顔を上げて、すみません、と微笑んだ。 マルクは何故か泣きそうな顔をする。 「…アッシュ殿下には幸せになってほしい、 けど。俺は、シアーゼちゃんがファリス様を本気で好きなら別に奪っちゃっても良いとは思う…」 「…あはは…問題発言ですね」 慰めようとしてくれているのだろうか。 よくわからない男である。 しかしマルクは思ったよりも真剣な眼差しをこちらに向けてくるので、 シアーゼは眼を逸らすタイミングを逃してしまった。 「…そういうのではないんです。 俺は…、ただ怖いだけ…。誰だって、死ぬのは怖いでしょう」 「…どういうこと?」 「………いえ…、何でもないですよ…」 シアーゼは、小さく吐き出すように笑って 軽くマルクの胸に触れ、立ちあがろうとした。 しかし彼の腕を掴まれて阻止されてしまう。 「…俺は、シアーゼちゃんの事を考えてるよ」 「…はい?」 彼の言葉の意味がわからず思考を巡らせているとマルクに抱きしめられてしまった。 一瞬の出来事でシアーゼは呆気に取られ、されるがままだった。 「……ちゃんと泣けない子は可愛くないぞ?」 冗談めかした声が耳元でしてシアーゼは困惑した。

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