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第72話 マジで火の手の5時間前

西ソマトロアム皇国軍の侵略を目前に リゼエッタ帝国はてんやわんやであった。 その日が来ることはわかっていたのだが、 今は完全に手薄状態である。 「マズイぞこれは」 アッシュは額に片手を当てては ぐるぐると思考を巡らせた。 「なぜ指揮官と准将が仲良く揃ってお出かけなのかと僕は再三言ったのですが... しかしまあ、別の国と交戦中と聞いていましたから完全に油断しましたね」 大将は苦笑しながらも広げられた国とその周辺の見取り図を見つめている。 中将が全快ではない今、全面衝突は避けなければならない。 「ひとまず国民をこちらから逃がしましょう。 同盟国には各自伝えてはいるので受け入れてくれると思います。二大戦力はないとはいえ兵達の準備もある程度は整っていますから、頭を使えばどうにか凌げるかと」 地図の上を指差しながら大将は淡々と作戦を口に出す。 さすが大将と言ったところか。 「.....君がいてくれてよかったよ」 アッシュは彼の冷静な思考に感謝しつつも、 待機していた使いのものに直様命令した。 窓辺で話を聞いていたファリスが近寄ってくる。 「わたくしが5人分戦います。」 「それは...大変頼もしいのですが...」 急に何を言い出すのかとアッシュは焦った。 大将は苦笑を浮かべてなんと言っていいやらと 戸惑っているようだった。 「勘違いしないで、マルクさん掛ける5です」 ファリスは大将の前に広げた片手を突き出すので 慌てて彼の腕を掴み引き寄せた。 「ちょっとファリス...」 「どうして!?私も戦う!」 「相手は軍隊だぞ! 肉体言語で勝てるような相手じゃない!」 アッシュが叫ぶとファリスは唇を噛んだ。 側で見ていたミミィグレースが近寄ってきて ファリスの腕を取る。 「お姉様、行きましょう。 戦争のお話は殿方だけの方がよろしくてよ。」 ミミィグレースの言葉にファリスは歯痒そうに こちらを見たがやがて部屋を出て行ってしまった。 はぁ、とため息をつく。 「.....すまない..」 「いえいえ。ファリス様に兵達を鍛えて頂ければ圧勝できたかもしれませんね」 眼鏡を押し上げながら言われ、 冗談なのかわからずアッシュは苦笑するほかなかった。 確かにファリスは強い。 だがこれは戦争だ。 戦いの果てに大事なものをどれだけ守れたか、 それを考えなければならない。

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