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第73話 運命を共に
自分が無謀なわがままを言っていることはわかっていた。
しかしただ翻弄されるだけだなんて嫌だったのだ。
ミミィグレースに腕を引っ張られながら、
ファリスは城の廊下をとぼとぼと歩いていた。
「ああ、全く。戦争なんてロマンスの欠片もないもの、どうしてするのかしら。理解不能!」
呆れたようにミミィグレースは叫ぶ。
確かにそうなのだが、それは起こってしまうのだ。
ファリスが黙っていると、ミミィグレースは振り返った。
「王族は国と命運を共にする...
だからお父様もお母様もここに残ると仰ってるわ。
でもお姉様は、まだわたくし達の家族ではないから」
そう言って彼女はファリスの手を両手で包んだ。
「逃げるのよ」
「...何を言って」
「逃げるの、あなたは死んじゃダメ」
ミミィグレースの金色の瞳が真剣に輝いていて、ファリスは唇を噛んだ。
自分はほとんど生きている意味などない人間なのに。
「私は.....」
それに、光をくれたのは、アッシュで。
「アッシュと運命を共にしたい...
アッシュの側にいたいんだ。
だから私もここにいる....」
思わず思ったことをそのまま呟いてしまうと、
ミミィグレースは目を大きく見開いていた。
そしてファリスの両手を取る。
「ええ...そうね、そうよね...!」
ミミィグレースは何故か涙を溜めた瞳で見つめてくる。
ファリスは何も言えなくなってしまって、
ただ静かに頷いた。
「....戦争なんて早く終わらせて、みんなで暮らすの」
そう言いながら彼女はファリスに抱きついてくる。
彼女は王女という立場上、堂々としているが
本当はまだ年端もいかない少女なのだ。
恐怖と、戸惑い。
そんなものが彼女の震える体から伝わってきて、ファリスは彼女の頭を撫でた。
誰かのために、どころか自分のためにすら戦ったことのなかったファリスは
今自分が何をできるのかがまるで分からなくて
それでも彼らのそばにいたいと、思えることが、
単純に嬉しかった。
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