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第80話 理不尽な侵略

「.....はぁ。 とはいえ思いの外短い命になりそうですねえ」 シアーゼはため息を零し、兵に蹴られるようにして歩き出した。 焦げた香りが鼻を掠め、美しかった城の部屋や廊下は荒らされている。 後手に縛られ、 引き摺られるように歩き城の外へと出た。 外には武装した兵や馬車が連なり、 腕を組んだ大男が待ち構えていた。 ソマトロアム軍の何かしら偉い方なのだろう。 「....王女か?」 大男の前に連れてこられると、彼は一言口を開いた。 「さあ..それが城はもぬけの殻で。 こいつしかいなかったんです」 傍にいた兵が苦笑した。 大男はフンと鼻を鳴らすとその兵を蹴り飛ばした。 「ワシが聞きたいのは"王族の首です"だけだ」 理不尽な理由を述べるが、誰も兵を助けようとはしない。 シアーゼはいよいよ命の覚悟をしつつ眉根を寄せた。 「..お前は何者だ?女でもないようだな」 大男はシアーゼに顔を近付け、着ていたドレスを破った。 平らな胸を露わにされたがシアーゼは彼の顔をじっと見つめた。 「...俺、は生贄なんです。 つまり囮として残された可哀想な一使用人。 別の言い方をすれば"唯一の生き残り"」 「どういう事だ?」 「みんな魔女に連れ去られたんですよ。」 「酔狂な」 「でも城の中には誰もいないでしょう?」 大男はまたフンと鼻を鳴らしシアーゼの髪を掴んだ。 痛かったが顔色1つ変えずにいると男は突然大笑いして近場の兵に向かってシアーゼを投げた。 「カイザー様の元に連れて行け。 おかしなペテン師が王族を隠したらしい」 「...っだから、魔女ですって」 尚も言いながらシアーゼはぶつかった兵に舌打ちをされまた立たされ蹴られながら歩き出し始めた。 城の橋を渡り、 森に面した道へきたところでちらりと後ろを振り返った。 大きな城は夢の国らしさは薄れ、火の手に包まれつつある。 彼のいる使用人室までは火は届かないことを少しだけ祈ってやった。 「...そうだね、かっこつけてますよ。俺は」 奴隷船のような粗末な作りの馬車に押し込められながら、シアーゼは笑った。 自分は、こうするしかないのだ。

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