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第81話 彼は既に世界を救っていた
「指揮官、指揮官!」
光が瞼を突き刺し、体が揺すられマルクは目を覚ました。
准将がどこか呆れたような表情でこちらを見下ろしていた。
「大丈夫ですかい?
全く1人で突っ込んでいくんだから」
その声でマルクは一気に覚醒する。
身体を起こし辺りを見回した。
そこは軍の医務室であった。
しかし窓は割れ、布団も煤で汚れている。
「ロッカーの前でこいつが鳴いてたんで
開けてみたら指揮官詰まっててちょっと面白かったです」
准将は呑気に言いながら猫を抱きかかえた。
大将が飼っている猫は、にゃあー、とごきげんそうに鳴いた。
「...シアーゼちゃんは...!?」
意識を失う前のやりとりを思い出す。
准将は猫を撫でながら立ち上がった。
「ドレスを着た者が
敵さんに連れ去られたのを見たって奴がいたんで、おそらくそれが忍者の子猫さんじゃないですかねえ」
「....っくそ...」
マルクは思わずベッドを殴った。
守ると言っておきながら、結局行かせてしまった。
後悔と自責の念と、怒りと、様々な感情でマルクは叫びだしそうだった。
「城には指揮官とこいつ以外誰もいないのがまた謎でして」
「...誰もいない...?」
准将の言葉にハッとなり顔を上げた。
すとんと彼の手からベッドに猫が降り立つ。
大将がつけてやったらしい赤い首輪には鈴...ではなく、指輪ケースのような箱がぶら下がっていた。
ふ、とマルクはベッドを殴った拳を開いた。
そこには小さな鍵が握らされていた。
マルクは咄嗟に猫を引き寄せ首輪を外した。
「何してんですか?」
准将が不思議そうに覗き込んでくる。
箱を角度を変えてみると鍵穴が見つかり、
手に握らされた鍵を差し込みと箱はかちゃりと音を立て静かに開いた。
中には四つ折りにされた紙が入っている。
マルクはそれを素早く開けた。
「"城の面々は、リゼエッタクエストにご案内中。隠しボスの部屋にて合流されたし。
場所は可愛いナヴィがご案内。"」
謎の文面と共に更に鍵が入っていた。
マルクは准将と顔を見合わせる。
やがて猫は小さく鳴いてベッドから降りてたったと歩き始めた。
「....可愛い、ナヴィ...こいつか!」
全く馬鹿げている。
マルクは頭を掻きながらもベッドから飛び降りた。
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