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第89話 慈悲深い国

「....本当にいいんですか...? ばれたらここもただでは...」 ファリスが不安気な声を出す。 確かに、そうなのだ。 もしもこの国にアッシュ殿下がいるとなれば ソマトロアムはこの国をも落とすだろう。 しかしアクアムは、ふむ、と目を閉じた。 「そうだな。だがその時は貴殿らをおとなしく 引き渡すから安心しろ。 我らはただ遭難している者を慈悲深い心で助けてやっただけだと主張するしな」 「さすがっす...お姉様」 アクアムは至って真面目な顔で言うものだから おそらく本当に引き渡されるのだろう。 「...まあ、"悟られぬよう"にはしてやるから安心しろ。その先の答えは自分で見つけることだ。」 「..充分です、お心遣い感謝いたします。」 アッシュは深々と頭を下げた。 やがて2人は立ち上がり、女王の間を去ろうとした。 しかしアクアムはじっとアッシュを見つめてくる。 「....アッシュ王子、残ってもらえるか? 少し2人だけで話したい」 彼女にそう言われ、ファリスを振り返った。 彼は変な笑顔を浮かべては片手で行けというような仕草をする。 「....わかりました。」 アッシュは返事をし、 ファリスは足早に部屋を去って行ってしまった。

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