95 / 129

第96話 傲慢と無知

痛みが全身に広がり、もはや何処を殴られているのかすらわからなくなりそうだった。 「知らぬことは罪だ。 お前が自白するまで遊んでやるとしよう」 意味のわからない理不尽な発言をされ、 シアーゼの身体はその場に崩れ落ちた。 「知らない事を…思い出せと……?」 「退屈なのだよ。故に全てはただの暇つぶしだ。 貴様を甚振るのも、戦争をするのもな」 シアーゼはぼんやりと霞む視界の中、 その銀色に光る男を見上げた。 なんというとんでもない輩がいたものだ。 男は近くにいた兵に何かを言い去って行ってしまった。 兵達は鞭を持ち、口元に嗜虐的な笑みを浮かべていた。 「はぁ」 シアーゼはため息を零し、 口の中の血を地面に吐き出す。 ここに来る前から死は覚悟していたが、 自分のような罪深き人間はそう簡単に楽になるわけがない。 質舌尽くしがたい苦しみの中哀れな最期を迎えるのだ。 それが当然の報いだし、 受け入れる覚悟はとうの昔から出来ている。 だから、怖くても大丈夫だ。 受け入れられる、はず。 ファリスの顔が浮かび、シアーゼは彼の事を思った。 きっとファリス様は大丈夫だ、 彼は強いし、アッシュ殿下もいる。 自分がもし居なくなっても、 きっとなんだかんだ生きていける人だ。 シアーゼは必死にそう言い聞かせて、理不尽に死ぬ自分に心残りがないようにしていくのだった。 鞭が空中を割き、鈍い痛みが身体に走った。 「…っ、」 唇を噛み、声を殺す。 心を無にしなければ。 そうやって目を閉じた先に、 なぜか、ロッカーに詰め込まれたマルクの姿が浮かんで 小さく噴き出してしまった。 「何がおかしい!」 兵に怒鳴られ、強めに叩かれてしまった。 何がおかしいんだろう。 わかんないけど。 シアーゼはくすくす笑い続けていた。 一人でいる君は放っておけないとか、 ファリス様で頭がいっぱいなのを邪魔したい、とか。 悲しいとか。 行くなとか。 好き、とか。 全く、世界でいちばんバカなことを言う男だった。 俺はこんな風に自己満足的に朽ちていくような 傲慢な奴なのに。

ともだちにシェアしよう!