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第101話 救いたい人たち

「........ファリス様」 ファリスは自分が言葉を詰まらせているのに気付き、慌てて顔を上げた。 ぼやけた視界の中マルクが泣きそうな顔で見つめてくる。 「...私なんか守ってもしょうがないのにって いつも思ってたけど..シアーゼがいるから.. 私は"王子"でいられたし、どれだけ手を汚しても、シアーゼがそういう風に扱うから綺麗なような気でいられたんだ..」 ずっとずっと自分のことをそういう風に扱うのは彼だけだった。 それでも時には友達のように、 親のように、叱って怒って一緒に笑って。 ずっとずっと側にいて。 それでも自分は何一つ彼に返せてはいないのだ。 「.......私はいつも救われてた..けど、 私ではシアーゼは救えないんだ.. どんなに歩み寄ろうとしても、 私が王子でシアーゼが従僕である関係が邪魔をするし それを変えることも出来ない」 彼は自分以上に自由になるのを拒んだ。 だから勝手に決めて勝手に一人で捕まってしまったのだ。 だが自分は、自分の立場ではそれを怒ることは出来ない。 どんなに歴史を共にしようと、彼の心の奥に辿り着く事は出来ない。 自分では、出来ないのだ。 「俺が.....俺が、救ってもいいですか」 ぼそりとマルクが呟いた。 ファリスは涙を乱雑に拭って彼を見た。 マルクは真剣な眼差しでこちらを見ていた。 「みすみす捕まらせといてどの口が言うんだって話ですが、 今回だってもっと俺がしっかりしてれば、 こんなことにはならなかったと思うし でも俺は...こんな風に彼が 自分もあなたも傷付けるのを見たくない..... 俺はそんな彼が.......」 マルクはそう言って一瞬遠くを見るような目をした。 その目には見覚えがあって、 ファリスは思わず口元を歪めた。 「....暫定"世界一の女"だぞ? マルクさんに扱いきれるかなぁ」 冗談めかしてファリスは言ったが、彼のその瞳を見て妙な安心さえ覚えた。悔しささえあった。 ファリスはテーブルに両手をついて頭を下げた。 「お願いします」 自分よりずっと深いところに行ってしまいそうな彼だ。 言葉も、時間も、想いの大きさも知らない自分は無責任なのかもしれない。 それでも自分には絶対にできない役目を譲るくらいしか、シアーゼのためにしてやれることは無い。 マルクは深く頷き、世界が変わる瞬間を見ているような気分になったのである。 「ファリス様っ! マッチ1万本売ってきましたわ!!!」 ノックもせずにドアが開きボロボロのミミィグレースが飛び込んできた。 マルクは目を見開き飛び上がるように立ち上がる。 ジャージ姿で手に袋とカゴを持った ボロボロのマッチ売りの王女はかなり残念な姿である。 「....あら?マルク様?」 「み....ミミィグレース様....なんという..」 王女のあられも無い姿に コメントを出せなくなっているマルクであった。 「ていうかなんの修行ですか...」

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