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第104話 世界一王女のお願い

普段は重く、静かな鉄の要塞が バタつき始める。 手元でチェス駒を弄びながら、退屈な時間を過ごしていた皇帝の部屋にも そんな喧騒が響いてくる。 やがて重苦しいドアが激しくノックされる。 「何事だ!」 傍で苛立っていた大臣が振り返って叫んだ。 飛び込んできた兵はすぐさま跪き、ぜえぜえと息を切らせている。 「カイザー様!リゼエッタ王国の王女を名乗る女が来ております...」 兵の言葉にカイザーは駒を指先で弾き飛ばす。 「...何?」 少しは、退屈しのぎになるだろうか。 そんな観測でカイザーは鎧の下で口元を歪めた。 各国の要人達を背後に従え、広間で待っていた女はカイザーがやってくるや否や微笑んだ。 社交界などに顔を出せば どこにでもいるようなお姫様のような姿で、武装した人間を従えている異様な光景であった。 「お初にお目にかかりますわ。 わたくしはリゼエッタ帝国第一王女、 ミミィグレース・オウカ・リゼエッタ・トロイト。 このような不躾な訪問になってしまったこと、 どうぞお許し下さいませ」 彼女は優雅な所作でお辞儀をする。 無礼だぞ、と誰かが声をあげそうなものだが 広間はシーンとしていた。 その要人達の顔ぶれもそうだが、 何より彼女の美しさがそうさせているのかもしれない。 「....リゼエッタからは貴殿1人か?」 カイザーの質問に、ミミィグレースは微笑んだ。 「ええ。本日はお願いに参ったのです。」 「お願い?」 乗り込んできた割には随分と幼稚な発言だと。 カイザーは不審に思いながらもその金色の瞳を睨んだ。 「もしわたくしのお願いを叶えてくださったのなら、 ここにいるすべての方があなたに従うとお約束致しましょう。 もちろんわたくしも」 ミミィグレースは突然そう言うと、 手に持っていた紙を広げて突き出した。 そこには様々な国の代表の名前が印付きで連なっている。 その書類に広間内はざわつき、 既に西ソマトロアム側についている重役達も目を見張っている。

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