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第110話 恋と王子は使いよう

「私も...お前に言いたいことがある」 彼の胸の中でファリスは呟いた。 最初に彼に気持ちを伝えられた時、 孤独と絶望の真っ只中で 男だろうと暗殺者だろうと、それでもいいと言える彼の強さが理解出来なかった。 考えることも辛くて、死に急いだ。 それでもアッシュは見捨てなかった。 「......私を、助けてくれて、ありがとう」 ファリスは顔を上げて、 下から彼の顔をじっと見つめた。 金色の瞳がキラキラ光っていて、 そんな美しい色の中に自分の顔があった。 「あの時...アッシュが助けてくれなかったら、 きっと私は不幸なままだった こんな風に誰かを守りたいとか幸せにしたいとか、思うこともなく死んでたんだ それがどんなに悲しいことか今ならわかる... だから、ありがとう...アッシュ」 心臓の音が聞こえる。暖かな体温に包まれている。 同じ温度の手のひらで頭を撫でられて、胸の中にじんわりと幸せな気持ちが広がっていった。 アッシュはいつものようににこにこと微笑んで、額に口付けてきた。 「当たりだろ。君が好きだから」 またそれかよ。 呆れながらも、なんだかんだ根本は変わらないこの綺麗な王子様のことが、愛しくてたまらない。 ファリスは彼の首の後ろに手を回し、 ぐいっと背伸びしてキスをした。 「私も、アッシュが好きだよ」 これから先、また死んでしまいたくなるほどの辛いことがあってもきっと、アッシュがいるのなら。 そして彼がそうなった時、自分が助けることができたなら。 そんな風に思えることが、とても幸せなことなのだ。 アッシュはぽかんとしたような顔でこちらを見ていたので、ファリスはまた口を尖らせて彼から体を離した。 「なんだよーその反応はぁ。」 「いや、ごめん、急に...きすとかするから...」 「ばっかこっちまで恥ずかしくなるだろ!」 「ご、ごめん...!ファリス!」 ロングロングタイムアゴー。 それはここではない遥か遠くの、 おとぎの世界のような場所。 世界は至極残酷で、人はただ、生きている。 そこだけがここと変わらないそんな場所の物語。 fin

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