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第112話 恋とスパイは使いよう

珍しくうまく言葉が纏まらない。 そうやって顔には出せずに焦っているとマルクの手が頬から離れていって、思わずそれを追って掴んでしまった。 「....俺には眩しい」 マルクの指に自分の指を絡めて、 再び自分の頬へと引き寄せた。 彼の温度が頬に触れる。 生きている温度だった。 眩しい、みんな眩しい。 俺を想う人達がいるという事実が。 それでも暗闇に突き落とされると、 どこへ行けばそれがあるのかともがいてしまう。 「...拒絶してんのか受け入れてんのか..どっち?」 マルクは苦笑して空いている手で肩を引き寄せてきた。 頭を撫でられて、その温度にもっと触れたいと本能が勝手に彼の胸に頬を押し付ける。 「不謹慎だけど、さっき泣いてるシアーゼちゃん見て、....すっげえ綺麗だと思った」 マルクの言葉に、自分が初めて人前で泣いてしまったことにため息をつく。 「......高くつきますよ」 「ええーそこはプライスレスで」 それでも妙な心地になるのが不思議だ。 不本意ながらその温度が心地いいと思ってしまっている自分がいる。 シアーゼはようやく頭が冷静になってくると不意に恥ずかしいような気になって残っていた涙を服の裾で拭った。 「...忘れてください。」 「いやいや忘れられないでしょ」 そう言われて顔を上げると彼と目があってしまう。 至近距離でその青い瞳に自分の顔が写っているのが見えた。 「悲しかったり痛かったりしたら泣いてよ..俺、もっと強くなるから 俺に守らせてくれないかな...」 女ったらしの癖に、なんでそんな眼をしているのか。 そして自分も何故逸らせないのか。

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