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第113話 恋とスパイは使いよう

シアーゼが何も出来ずにいると、 彼の顔が近付いてくる。 「....好きだよ、シアーゼちゃん」 「.............。」 唇が、触れそうになり シアーゼの冷静な思考が光の速さで戻ってきた。 彼の身体を突き飛ばすように腕を突っ張ると、 ぐはっ!と言いながらマルクはベッドから落ちていった。 「人が弱ってる時にドサクサに紛れてあれこれしようなんて最低だと思いません?俺は思います」 シアーゼは腕を組んでは1人で、うんうん、と頷いた。 「ひど...っ、今めっちゃそういう流れじゃなかった...?」 マルクが腹を抑えながら起き上がってきた。 「ていうか俺の気持ちガン無視ですね」 「ええ....俺のこと嫌い...?」 床に座りこんだままベッドに片手を置いて見上げてくる彼に シアーゼは布団から這い出て笑顔を向けた。 「内緒」 そう言って自分の唇に人差し指を当てる。 マルクがぽかんとしている隙にベッドから降りて、カーテンが揺れる窓に近付いた。 「身の危険を感じるのでお暇します」 「....ええっ!?ちょ、シアーゼちゃん!?」 窓枠に足をかけるとマルクは慌てて立ち上がる。 場所はマグルシュノワズの城のようだった。 こんなに高い階の部屋に寝たのは初めてだと どうでもいいことを思いながらひらりと窓を乗り越え 壁に走る細い管の上に器用に降り立った。 「危ないって起きたばっかなのに」 窓枠に駆け寄ってくるマルクは焦ったような声を出した。 それがおかしくて既に管の上を移動していたが、彼を振り返った。 「少し寝すぎたようなので、世界情勢を把握しなくては。」 「もう働くのかよ...」 「当たり前でしょ!俺はファリス様の従僕ですよ」 窓から身を乗り出して追いかけてきそうなマルクだったが、やがて諦めたようにため息を零す。 「相変わらずファリス様か...」 ぼそりと呟きこちらにも何か言いたげに見つめていた彼だったがやがて、分かったよ、と諦めたように呟いた。 シアーゼは仕方なく管の上を引き返し、 窓枠に両手をついたままの彼を見上げた。 「よりによって俺みたいなのに引っかかるなんてあなたも運が悪いですね?」 「...へ?」 マルクはぽかんとこちらを見ていたが、 シアーゼは微笑んで彼の頬に人差し指を突き刺した。 「.......ありがとうございました。 助けに来てくれて」 それだけ言うと、シアーゼはさっさと管の上をまた歩き始める。 あのアホ面は何度か思い出し笑いしてしまいそうだ。 と早速くすくす笑ってしまうシアーゼであった。 一方のマルクはシアーゼが触れた頬を片手で包みながら赤面が止まらずにさながら深窓の令嬢の如く小一時間過ごしたのであった....。

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