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第114話 恋とスパイは使いよう

馬を走らせリゼエッタ帝国へとやってきたシアーゼはようやく数ヶ月ぶりに主人であるファリスに会えたのであった。 ファリスは顔をあわせるや否や眼に涙を浮かべて 、 顔を真っ赤にしていきなり鎖骨のあたりを殴ってきた。 「バカ!バカシアーゼ!」 めちゃくちゃ傷に響いたが それでもシアーゼは幸せだった。 「すみません..ファリス様」 泣き崩れながらもかなりの力で殴ってくる彼の攻撃を片手で受け止めては謝った。 ファリスの金色の髪は短くなってしまっていたが彼は思ったより元気そうでホッとする。 「なんでお前はいつも...っ、 ええいもういい!無事ならいいよ!こんちくしょー!」 どこかの親方のような口ぶりになりながらもファリスはシアーゼの胸に飛び込んではおいおい泣き始めた。 全くこれだからこの人は放っておけない。 シアーゼは改めて幸せを噛み締めながらも彼の頭を撫でた。 しかし、覚悟はしていたとはいえ事態はますます深刻になっているようだ。 シアーゼはファリスの頭を撫でながらも少し離れた所で見ていたアッシュに笑顔を向けた。 アッシュはおずおずとこちらに近寄ってくる。 「ちゃんと役割を果たしていただけたようですね」 恨みがましくファリスの髪の毛に指を絡めながらアッシュに声をかけると 彼は泣きそうな顔になって俯いてしまった。 「....すまない。」 「真面目か!」 思わず突っ込んでしまうとファリスが顔を上げる。 鼻水やらなんやらで美しい顔が見る影もなかった。 「ちがう...私が、私が自分で...っ」 珍しくシアーゼの嫌味に気付いたらしいファリスは必死に訴えてくる。 2人揃って真面目か!と思いながらも シアーゼは取り出したハンカチで彼の顔の液体を拭ってやった。 「...分かってますよ。ご無事で何よりです」 彼がこうして大きな怪我もなく、 生きているだけで、自分はまた生きていける。 シアーゼが微笑むとファリスはまた泣き出してしまった。 ぎゅうっと抱きしめられて嬉しいが肋骨がメキメキと音を立ててシアーゼの笑顔は固まる。 見かねたアッシュが彼の頭に片手を置いた。 「ファリス、怪我人だから」 「あ...そっか!ごめん!」 ファリスは慌てて身体を離した。 ズキズキと痛みが走ったが笑顔を崩さないでいる自分は プロ根性があると自画自賛するシアーゼであった。 「椅子!椅子持ってきてやるからな」 そう声をあげてはファリスはばたばたと走って行ってしまった。

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