121 / 129
第123話 恋とスパイは使いよう
シアーゼは少し考えて、
不安げにこちらを見ているマルクを見つめた。
今まで恋だのなんだのはただの道具に過ぎなかった。
世界の中心はファリスで、それは今もそうなのかもしれない。
だけど心の中にいるのは。
冷え切った暗闇の世界に光を灯すのは。
「分かんないんですよ。俺は、人を好きになったことがないので。....これが恋かただの性欲か」
言いながら彼に顔を近付けて、ぽかんとしているマルクの唇に自分の唇を重ねた。
彼の温度が伝わってきて、確かに鼓動は早くなるのだ。
「だけどどうもあなたを前にすると落ち着かない」
言葉通り本当はそわそわしている自分がいた。
だけど悔しいので、それは表情には反映させないようにしているだけで。
「..シアーゼちゃん」
ぽかんとしていたマルクがぱちぱちと瞬きをし、
やがて勢いよく両肩を掴まれた。
何をされるのかと思わずシアーゼは奥歯を噛んでしまった。
「シアーゼちゃん!」
「は、はい?」
大声で呼ばれ今度はシアーゼがぱちぱちと瞬きをした。
「好きです」
いきなり告白をされ、何も言えずにいると唇を塞がれた。
恋か性欲か。そんなことを考える余裕がなくなる。
「...ん、ん...っ」
肩を掴まれていた手が身体へと滑りぎゅっと抱きしめられて密着する。
舌を突き出し、絡めて、気付けば無我夢中で彼の首へと腕を回していた。
やがて床という名の天井の裏側に押し倒されていく。
「...ん..はぁ...、」
深く深く彼の舌が差し入れられ、口の端から唾液が溢れ始める。
抵抗した方がいい、そう思うのに。
やがて唇が離れると、妙に名残惜しい気がして唇を舐め、彼の青い瞳を見上げた。
「.....俺は、君にもっと笑ってほしい。
自由に生きてほしい
俺じゃ、全然頼りないかもしんないけど
シアーゼちゃんを、笑顔にしたい。
もうあんな目に合わせないように守りたい...っ
ダメかな、俺じゃ...」
ともだちにシェアしよう!