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第124話 恋とスパイは使いよう
珍しく自信がなさそうに、それでも必死で。
そんな事を言われたのは初めてだった。
恋か性欲かと迷っているような自分が、そんな純粋な思いを受けるに値するのかと
不安で怖くて、本当は自分は彼に愛される存在ではないというのに。
「....あなたがそんな風に思う必要ないんですよ、本当は
俺が勝手にやったことですから」
彼の頬に手を伸ばして、両手で包んで軽く抓った。
「でもね、嬉しいですよ。そんな風に俺のこと想ってくれているのなら」
「....シアーゼちゃん」
指先で雫を拭いながらも、シアーゼは微笑んだ。
シアーゼは自分がそんなに綺麗な人間でないことは自覚していた。
欲望に忠実にどれだけでも殺すし、どれだけでも嘘をつく。
そんな自分をこんな風に純粋に追いかける彼は、
愚かで哀れでとても、とても。
「..........今俺は、あなたが欲しい」
ぼけっとこちらを見ていた彼の唇を奪った。
「わがままですかね、俺は...ファリス様さえいれば
それでいいはずなのに」
「俺の方がわがままだよ。もっと求めて欲しいって思うから」
人を好きになる、そんな感覚はまだ実感としてないけれど今は性欲のせいにしても彼に触れたいと思った。
するりと彼の指先が髪を撫で、首筋に口付けられる。
シャツのボタンを外されて、肌が露わになっていき
久方ぶりの人の熱に、身体が震えた。
しかし低い天井は迫り来るものがあり、シアーゼは思わず彼の肩に触れた。
「え...あ、ちょっとここでですか...?」
下に行けば空いているベッドは死ぬほどあるだろうに何もこんな板張りの埃っぽい上に可動範囲が限られている狭い場所で...。と思ったのだが
マルクは軍服のコートを手早く脱ぎ捨てている。
「ごめん、なんかもう無理」
そう言って胸に口付けてくる彼から差し迫るものを感じシアーゼは、まあ散々焦らしたしなぁと諦めることにした。
とはいえ胸の突起を舌先で弄られると、身体があっという間に熱を持ってしまう。
この下の廊下を誰かが歩いているかもしれないし、思わず唇を噛んだ。
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