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第125話 恋とスパイは使いよう
「…っ、ん」
マルクの指先が胸の突起に触れ、シアーゼは思わず唇を噛んだ。
首に噛み付かれるように肌の上に唇が這って、
強く吸われてチリチリと焼けるような甘い痛みが走る。
こんな事は何度だってあったはずだし、ただの作業みたいに思えていたのに
今は彼の一挙一動に翻弄されているみたいだった。
「…ふ…、っ、う」
足の間にマルクの身体が滑り込んで来て密着すると、彼もまた相当に熱を持て余している事が伝わってくる。
シアーゼは彼の胸を撫でるようにして軍服のジャケットのボタンを外していった。
その間にも耳に甘噛みされたり、頭を撫でられたりすると
早く欲しくなってしまい、うぅ…、とつい身を捩ってしまう。
しかしマルクは、はぁ、と小さく息を吐き出して上体を起こしてしまった。
「……シアーゼちゃん…俺はそんなに良い大人じゃないからさ…
君が他の奴とこんな事してたらと思ったら、どんどんおかしくなっていくかもしれないね…」
マルクは辛そうな呼吸をしているのに眉を下げて微笑んでは、シアーゼの頬を撫でてくれた。
シアーゼは、ただ寝転がったままぼうっと彼を見上げてしまっていた。
「こういう事は、…本当は、ちゃんと好きな人としないとダメなんだぞ
シアーゼちゃんが、ね」
彼はそう言って、そっと離れていってしまった。
シアーゼは一瞬何が起こったか分からず、戸惑ってしまい
彼を追いかけるように起き上がった。
マルクは狭い空間で身を縮こめるようにしてシアーゼに背を向けて、衣服を整えているようだった。
こんな事は今までに何度だってあった。
そのどれもが望んでいない事だったし、そういうものだと割り切っていた。
こちらから求める時なんてただの生理現象で、それでも利益が発生する時にしかしないような事だ。
そんな生き方をしてきたからお世辞にも、綺麗だなんて、思っていない。
シアーゼは、自分がよくないのか、と思うと少しだけ絶望して
だけどその寂しげな背中が、今にも行ってしまいそうな背中が、ぼやけて滲んで行くのを見ていた。
「………マルク…」
好きなら、奪えばいいのに。
心を奪えないってそれだけ理解しているのなら、せめて身体ぐらい好きにすればいいのに。
それは少し苛立ちでもあった。
自分が全て悪いくせに、だ。
シアーゼは、やっぱり自分自身のことがよく分からないまま
それでもどうにかその背中を引き留めたくて、
だけど何を言っていいのか、上手く頭が回らなくて
それでも何か言わなければという焦りがあった。
「俺は……薄汚い、身売りで…
人殺しで……平気で、人を裏切る…下衆野郎ですよ…
自分が愛されるような存在じゃないって…そんな資格すらもないって、分かってます…
利益になるんだったら…平気で嘘もつきます…
好きだとか愛してるとか、あなただけとか…なんだって…」
それは本当の事だったし、シアーゼはだからなんだとさえ思っている。
だけど何故か、声が震えてしまっていた。
マルクは複雑そうな顔で振り返ったが、シアーゼの顔を見ると驚いたように目を開いている。
「あなたに愛されたってなんの利益もないですよ…」
だから別に、どう思われたっていいはずなのに。
シアーゼは笑おうとしたけど、視界はどんどんぼやけていって、ついにマルクがどんな顔をしているのかも分からなくなった。
どうしてこうなってしまうのか不可解で、それは少し怖くて
シアーゼは両手で顔を覆った。
「……俺のこと、…愛して……マルク……」
濡れた声が、両掌の中で小さく小さく溢れていった。
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