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焼きもち
「何だかんだといって仲が良いのね」
爆弾発言をした当の本人が姿を現した。
「お店の人にお誕生日⁉って聞かれて、今までの蓮なら私の後ろに隠れて一言も話さないのに、今日は自分から、パパとママの記念日なんだ、そう言ったのよ」
「そうなんだ、偉いな蓮。パパっておいで」
両手を広げるも、プイっと顔を逸らし、大好きな涼太の許へぱたぱたと駆けていった。
「そんな大きなスリッパ履いて・・・転ぶわよ」
お袋が慌てて追い掛けた。
「いいな、賑やかで」
「そうか⁉五月蝿いだけだよ」
葵の表情はいつになく明るい。彼の楽しそうな顔を見るのは何年ぶりだろう。
「・・・そんなに、ジロジロみるなよ。余計な事を期待するだろ⁉」
葵の逞しい腕が不意に背中に回ってきて、そのまま胸元に抱き寄せられた。
「あ、葵‼」
吃驚し過ぎて声が裏返ってしまった。いつもなら、止めろ‼すぐ振り払うのに・・・何でだ?妙に居心地が良いのは。
「真生・・・?」
拒否されるものだと予想していたのだろう。まさかの反応に、驚いたように目を大きく見開き、それから嬉しそうに細めた。
「夢みたいだ。真生が腕の中にいる」
ドクンドクンと力強く脈打つ彼の心音が喧しい。
「ちょっと‼そこ‼」
台所から涼太の声が飛んできた。
「何いちゃついてるの‼」
見ると頬っぺたを膨らませて、ぶんぶんとお玉を振る涼太の姿が目に入った。すぐに腕を振りほどいてくれるだろうと思ったけど、逆に力を籠められ彼の胸の中にすっぽりと囲われた。
「お前には蓮がいるだろ」
「はぁ⁉何それ!」
しれっと答える葵に、涼太の頬っぺたはますます膨らんでいった。
蓮は不思議そうにきょとんとして、俺たちを眺めていた。
「喧嘩するほど仲がいいってよく言うのよ」
「お袋、余計な事を教えなくていいから‼」
「余計な事じゃないわよ」
お袋は相変わらず能天気だ。
「真生、蓮を連れて葵くんちを見てきたら?涼太くん、お手伝い頼めるかしら?」
葵の機嫌はますます良くなり、反対に涼太の機嫌は悪くなる一方で。俺はどっちの肩を持ったらいいのか、もはやため息しか出ない。
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