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Wデート

「僕の方こそ敵わないよ」 「まあ、今回は、これで仲直りな」 「うん、分かった」 あれ⁉この二人、喧嘩していたのか⁉ 「別に喧嘩じゃないよ、主導権はどっちが握るで、ちょっと揉めただけだから」 涼太は、蓮の手を握ると、上映ホールへ続く薄暗い廊下を歩き始めた。 「家庭は、涼太主導の方が上手くいく」 って、葵。 「真生は、宮尾さん主導の方が上手くいく」 って、涼太。 何の事か分からず、聞き返すと、葵が、俺の肩に手を回してきて、耳もとで、甘い声で囁いてきた。 「真生のカラダ、誰よりも知ってるのこの俺。だから、夜の家庭生活は、俺主導な訳」 「葵‼」 真っ昼間から、この二人は・・・。 しかも、子供の前で・・・羞恥心の欠片もないのか。 頭が、痛い・・・。 ようやく上映ホールに着いたもの、すでに、大勢の親子連れで埋め尽くされていた。案内係の女性が、最前列に三席の空席と、一番後ろの列なら、四席空いてます、そう案内してくれた。 「蓮くん、前がいいみたい。どうする⁉」 「涼太と蓮で、前に座ればいい。俺と真生は、後ろに行く」 葵の言葉に、涼太、すごく、かなしそうな目をしていた。 「一時間そこらだろ、涼太」 「それは分かってる、だけど・・・」 今にも泣きそうな顔で見詰められると、こっちまで、切なくなる。 「映画が終わったら、真生と二人きりにしてやるから」 「・・・」 葵が、苦肉の策を捻り出すと、涼太、ようやく納得してくれたみたいで、蓮の手を引っ張り、最前列へと向かっていった。 「えんちょうせんせい⁉」 「あっ、ほんとだ、えんちょうせんせいだ‼」 葵と並んで座席に腰を下ろすと、回りにいたチビッ子達が、ガヤガヤと騒ぎだした。一緒にいたお母さん方も、何事かと、一斉にこっちを向いてきた。 葵が、「おはようございます」蕩けるような甘い声と、にこやかな笑顔で挨拶すると、みな、メロメロになっていた。 「あれ、もしかして、蓮くんのパパ⁉」 うち一人に見覚えがあって。声を掛けられ、同じクラスの保護者だと気が付いた。 「蓮くんのパパとは幼馴染みなんです」 「そうなんですね。知らなかった。あれ、蓮くんは?」 「蓮くんは、ママと一緒に前にいますよ」 「・・・葵‼流石に、まずいだろ」 小声で彼の服を引っ張った。 「何で⁉大丈夫だ、もうじき、暗くなるし」 葵は、悪びれる様子もなく口にすると、今度は、手を握り締めてきた。 振り払おうとしたら、悲しそうな目をされた。 葵も、涼太ソックリ。 「好きにすればいい」 「じゃあ、そうさせて貰う」 映画が始まると、肘掛けを上に上げ、ゴロンと俺の膝の上に横になってきた。 葵は、映画を見る気はないらしい。 体の向きを変えると、その大きい体を器用に丸くして、俺の下腹辺りを、頬ですりすりしてきた。 やがて、動きが止まり、穏やかな寝音を刻み始める葵。 ーー意外と、子供っぽいんだ・・・ 見た目と違い、柔らかな彼の髪を撫でながら、中学生の時、屋上で、授業をサボって、葵と時間を過ごした事を思い出した。 お互い、女みたいな名前で、よくからかわれていたっけ。 あのときの葵は、本当に泣き虫で・・・。 いつも、泣きつかれて、俺の膝の上で寝ていた。 「ありがとうな」気のせいかな。 そう聞こえたのは・・・。

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