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蓮の遠足
「蓮くん、蟻さんより、カピバラさん見に行かない⁉」
涼太が困り果てていた。
蓮は、動物よりも、蟻の行列を見ていた方が楽しいみたいだ。
お昼近くになり「蓮くん」「蓮くん」と、クラスメイトが、母親と一緒に集まりだした。葵もしっかり混ざって、賑やかにお昼ご飯タイム。
涼太は、いつの間にか俺の弟になっていた。
あとは蓮が余計な事を言わないよう祈るのみ。
「涼太が一番楽しそうだな」
隣に座る葵の顔にも自然と笑みが溢れていた。
「職員は別だったんじゃ⁉」
「まぁ、固いこと言わない。俺の指定席は真生の隣」
「はい、はい」
葵の方こそ余計な事を言わないか心配になってきた。
涼太は、クラスのお母さん方にレシピを聞かれたり、逆に聞いたりしていた。何ら違和感なくその輪に溶け込んでいた。
「やっぱり、涼太は、ママだな」
「葵、ここでは止めよう。」
「何で⁉」
ここら辺で押さえておかないと暴走しかねない。
「真生の怒った顔もなかなか可愛いな」
「葵、お前な・・・」
彼に今更何を言っても効き目がないのは分かりきった事だが。
もはや、ため息しか出ない。
お昼を食べて、売店でクラスのお友達とお揃いのカビバラのぬいぐるみを買ってやると、蓮、大喜びしていた。
一時半に、写真撮影した所に戻り、先にバスで幼稚園に帰るクラスのみんなを見送り、家に帰ろうか⁉そう蓮に声を掛けたら、頭をブンブンと横に振って、涼太の腕を引っ張って、また、中へ戻っていった。
「蓮、待て‼」
ぐんぐん園内を歩いて、『カピバラ温泉営業中‼』の案内板に真っ直ぐ向かっていった。
「りょうにいに」
遠慮しがちに涼太を見上げる蓮。
「ん⁉何⁉」
「おともだちいなくなったから、ママってよんで、だいじょうぶ?」
ずっと我慢していたんだろう。涼太に、いいよ、そう言われると破顔し、離すまいと彼の手をぎゅっと握り締めた。
「りょうにいにママ、カビバラさんどこ⁉」
「ほら、ガラスの向こう側ーーお湯に入っているの、みんな、そうだよ」
「そうなんだ。へぇ~」
蓮は、ぬいぐるみを片方の手で抱き締め、食い入るように眺めていた。こうなったら、一時間は動かない。
諦めて、その場にしゃがみ込んでいたら、携帯が鳴り出し、画面を見ると、葵からだった。
『今どこ⁉』
「どこって、蓮と涼太とカビバラ見てる」
『はぁ⁉ずっと、駐車場で待ってんだけど』
「みんなとバスで帰ったんじゃ・・・」
『真生と、帰る場所一緒なのに、なんでわざわざ幼稚園行かないといけないんだ』
「あのなぁ、葵・・・」
なんか、頭痛がしてきた。
園長の仕事、放棄してまで一緒にいてくれるのは嬉しいけど。
公私混同は良くないだろうが。
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