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葵の母の思い
「母さん、ここは、俺と真生、涼太、蓮四人の家です。明日の朝には帰ってください」
葵は、自分の母親に告げた。息子にそんな事を言われ、さぞかし肩を落とすかと思えば、意外にも、笑顔を見せた。
「幼稚園の卒園式の時、将来の夢は?そう聞かれて、なんて答えたか覚えている⁉」
「そんな昔の事なんか覚えている訳ないだろ」
「母さんははっきり覚えているわ。『まおをおよめさんにして、このようちえんのえんちょうせんせいになります‼』って言ったのよ。普通は、幼稚園の先生だけどね。良かったわね、夢が両方叶って」
葵、顔真っ赤だぞ。
「じゃあ、何で反対した⁉」
ますますムキになる葵。
滅多に見れない彼の素の姿。
「お父さんがかわいそうでしょ。一人だけ反対派なんだもの。でもね、欲をいえば、孫をこの手に抱きたかったけど・・・蓮くんだっけ⁉真生くんのお子さん。一度でいいから会わせてもらえないかしら⁉」
「勿論です」
俺が答えると、良かったわ、そう口にして、胸を撫で下ろしていた。それから、涼太の方を向き、深々と頭を下げた。
「今までの無礼、甥に代わり謝罪します。一番辛かったのは貴方なのにね。これからは、その分も幸せになってください。息子をどうぞ、宜しくお願いします」
「・・・宮尾・・・さん・・・」
涼太の目から大粒の涙が溢れていた。
やばい、俺まで目頭が熱くなってきた。
「たく、お前ら二人して泣いているんじゃない」
一人気丈に振る舞っていた葵の目も、うっすらと濡れていた。
「家に帰って、ご飯にしよう」
一部始終を笑顔で見守っていた親父が、タイミングを見計らって、そう言ってくれた。
おばさんに挨拶して、涼太の体を支えながら、実家へと向かった。
玄関を開けるなり、蓮に怒られた。
「ママのことなかせたのパパでしょう‼」
「違う、違う」
必死で否定した。
「じゃあ、なんでないてるの?」
むすっと仏頂面され、返答に困っていると、涼太が、俺の手を離し、蓮の目の高さになるようにしゃがみこんだ。
「蓮くん、これはね嬉し涙なんだよ」
「うれしなみだって、なぁーに⁉」
「悲しい時、蓮くんも泣くでしょ⁉嬉しいことがあったときも泣くんだよ」
「ふぅ~ん、そーーなんだ。へぇ~」
蓮、少しは納得してくれたかな。
「いつまで玄関先にいるの‼ご飯にしましょう‼」
また、ナイスなタイミング。お袋ありがとう。
色々と気遣ってくれて。
ーー恥ずかしくて、面と向かってはいえないけど・・・感謝してる。
テーブルの上には、蓮の好きな、のりまきまきと、唐揚げ。
他に、野菜サラダと、親父の好きな刺身ーー。
「涼太くん、手際が良くて、感動したわ」
お袋、涼太をベタ誉めしていた。
わざと明るく振る舞って、少しでも気が晴れるようにしてくれていた。
親父は・・・というと、何故か手か震えて、ご飯を海苔で上手く巻けず苦戦していた。
「何、緊張してるの⁉」
「いやな、真生の旦那さんたちと、こうして食卓囲むの初めてだろ?だから、緊張して」
さらりと言われ、そのあと、ものすごく恥ずかしくなった。
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