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一難去ってまた一難
お袋が、塩が入った容器を、木崎さんの前にどんと置いた。
「蓮にとって、大事な話しっていうから、家に上げたけど、息子の事をバカにする為に来たなら、お帰りください。この塩を撒かれる前に」
「用件も済んでないのに、酷いですね。流石、親子」
お袋は、木崎さんを睨み付けた。
彼女は、相当、肝が座っているのか、ただ単なる無神経なのか、全く動じない。
「あやかに、蓮を返して欲しいの。あの、稀代の殺人鬼、稲木隼人の弟の側に置いておいたら、何されるか分からないでしょ⁉」
「なんで、それを・・・」
「興信所に調べて貰ったのよ。他に、宮尾とかいう、胡散臭い男も一緒なんでしょ。蓮の教育に良くないでしょ。第一、貴方には、子育ては無理」
はっきりといってくれる。
涼太の元カレといい、彼女といい。
なんで、鼻から決め付けるんだ。
涼太は、涼太だ‼
昔の事なんて、もう時効だろ。今は、俺の大事な旦那さま。
それでなんで駄目なんだ⁉
そっとして置いて欲しいのに。
「悪かったな、胡散臭くて・・・」
怒り心頭の様子で、葵が現れた。
「その興信所、信用出来んのか⁉」
「何、言ってるんですか」
「あんま、しつこいと警察を呼ぶぞ」
葵が、塩の容器を手にすると、一摘まみし、木崎さんに向かって撒き始めた。
「真生は、ちゃんと子育てしてる。俺や、涼太は、それを支えているだけ。さっさと、帰れ‼」
木崎さんは、大慌てで、退散さぜるを得なかった。
「どうせ、金目当てだろ。児童手当に、障害児特別扶養手当・・・何もしなくても、蓮がいるだけで、月に四万近く貰えるからな」
葵が、玄関の外にも、塩をこれでもかと、撒き散らした。
「ありがとね、葵くん。肝心な時に、主人が留守しててごめんね」
「カラオケ教室ですか⁉」
「最近、ゲートボール始めたのよ。あんな、年寄り臭いの遣らなくていい‼なんて、言ってたのにね」
「ますます元気になっていいと思いますよ」
「あら、そうね」
お袋が、いそいそと家の中の掃き掃除を始めた。
「俺、やります。塩、撒いたの、俺なんで」
「大丈夫よ」
葵と、お袋の会話は、まるで本当の親子の会話のようだ。
見てるだけで、不思議と和む。
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