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第一回家事審判親権者変更調停
「それでは、家事審判、親権者変更調停を始めます」
男性の調停委員が『佐藤』と名乗り、女性の方は、『高橋』と名乗り、調停が始まった。
「まず、本人確認から。 申し立て人は、山辺あやか。 法定代理人は、内縁の夫、吉井一弥。で、相違ありませんか⁉」
彼、吉井さんっていうんだ。
良かった、氏名不明じゃなくて。
「あぁ」
面倒くさそうに頷くと、足をブラブラ、貧乏揺すりを始めた。
「佐田蓮君の、親権を現在お持ちなのは、父親の佐田真生、で相違ありませんか⁉」
「はい、間違いありません」
「では、質疑応答に入ります」
手元の資料に目を落とす調停委員の二人。
身動ぎもせず、しばらくの間、じっと眺めていた。
「吉井さんにお伺いします。蓮君を引き取る理由を教えてください」
高橋さんが口を開いた。
「あやが・・・妻が、どうしてもって言うんで。だって、人殺しの弟が、子供の母親代わりしているの、いやでしょ」
「それは、奥様の理由でしょう。聞いているのは、あなたの理由です」
高橋さんが、語意を強めた。
「えっとぉ~、別にないっすよ」
「そうですか・・・」
高橋さん、呆れたように、深く溜め息を吐いていた。
秦さんは、一言も発せず、黙々とメモをとっていた。
「妻が、具合が悪くてさぁ、代わりに出ろって言われたんだけど、オレ、関係ねぇし、帰っていい⁉」
吉井さんの発言に、高橋さんと、佐藤さん、二人とも顔をひきつらせ、苦笑いを浮かべていた。
「あの、吉井さん、帰る前に一つだけ。迎さんに対する名誉毀損、侮辱罪で訴えます。彼は、被害者であり、もう充分罪を償った」
秦さんが怖いくらい落ち着いた口調で、淡々とそう。
調停室に、重苦しい空気が流れた。
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