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赤ん坊を置き去りにし、姿を消した元カミサン

病院から、あやかが姿を消したと連絡があったのは、それから一週間後の事だった。 涼太も、葵も、雲隠れしていた、吉井さんが、あやかを迎えにきたのではないか、そう話しをしていた。 暴力で支配され、マインドコントロール下にあったんだ、そう簡単に抜けられるものではない。 直前まで秦さんには、胸のうちを明かしていたあやか。 どうにかして、救おうとしてくれていたのに。 後悔してももう遅い。 只今、佐田家では、涼太と、葵も交ざり家族会議の真っ最中。 議題は、あやかが、置き去りにしていった赤ん坊をどうするかだ。 「遅れてすみませんでした」 秦さんが息を切らし、駆け込んできた。 涼太とは、初対面だ。 お互い、なんとなく気まずいみたいだ。 「佐田さんの奥さま・・・でしたよね?宜しくお願いします!」 「”夫”です」 「す、すみません」 二人のやり取りを傍で見ている分にはなかなか楽しい。 「いて‼」不意に、手の甲をつねられた。涼太からとんだとばっちりを受けた。 「秦さんばっか見て‼」 「ごめん」 謝ると、テーブルの下で手をそっと握ってくれた。 「真生、俺も」 葵もつかさず、手を握ってきた。 「あやかさんから手紙が郵送されてきて、これなんですが・・・」 秦さんは椅子に座ると、テーブルの上に茶封筒をおいた。 「見ても大丈夫ですか?」 「えぇ、佐田さん宛てなので」 封筒を取ろうにも、両手が塞がっている。 二人は、手を離す気はないらしい。 「涼太、葵、悪いけど、手、離してくれ」 「宮尾さんが離せばいいでしょ」 「はぁ⁉普通、涼太だろ?」 「何それ」 二人が、いつものように口喧嘩を始め、大慌てで止めた。

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