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幸の退院と、焼きもち
「真生、忘れ物は?」
「多分ない。着替え持ったし、オムツ持ったし、ミルクも、哺乳瓶も・・・」
「なら、行こうか?」
「あぁ」
葵が、さりげなく荷物を持ってくれ、そのまま、手を握られた。
「葵・・・⁉」
「なんか、こういうのいいな。新米パパとママみたいで」
「あのなぁ・・・涼太がまた、焼きもち妬くから止めとけって」
「妬かせておけばいいんだよ」
葵は、ぶんぶんと腕を振り、鼻歌を口ずさんでいた。
よほど、機嫌がいいらしい。
「何か良いことでもあったのか?」
「良いこと?」
一旦言葉を止めると、にんまりと満足そうな笑みを浮かべた。
「だって、真生と久し振りにちゃんとしたエッチが出来たんだぞ
。しかも中に三回も出して・・・これほど嬉しいことはないだろ?お陰で調子がいい」
「おい葵‼」
聞かなきゃ良かった。
朝っぱらからそっちの話しか。
人通りだってないわけじゃないのに。
急に頭が痛くなってきた。
「ちなみに、涼太の方が機嫌いいから。俺もしたかったな・・・紐で真生の・・・」
「葵!ここで話す事じゃないから」
大慌てで、彼の言葉を止めた。
ご近所さんに万一聞かれたら、明日から、恥ずかしくて外歩けないから。
蓮がなかなか離れてくれなくて、涼太かなり困ったみたいだ。
見かねた親父が、蓮を抱き上げ、散歩に連れ出してくれたみたいで、出掛けた隙に抜け出し、ようやく合流できた。
それなのに俺がどこに座るかでまた揉め出して・・・。
二人には困ったもんだ。
結局、行きは涼太が運転し、俺が隣に座る。
帰りは、葵が運転し、俺は隣。涼太は幸の面倒見。
それで話しが纏まった。たく、こいつら、最初からそうすれば喧嘩せずに済むのに。
すっかり通い慣れた小児科病棟。今日で最後だ。
長期入院中で、家に帰れない子たちがいる病室の前を通るのがいつも辛かった。その子たちに比べると、蓮は幸せだ。たとえ障害があっても、五体満足でこの世に生を受けたのだから。
丈夫に産んでくれたあやかに感謝しなければならない。
あれから、彼女の行方はようと知れずーー。
幸せに暮らしていることを願うしか俺には出来ない。
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