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幸の退院と、焼きもち
幸の病室は四人部屋。同室の子はみな、幸より大きい子ばかり。泣いたり、喚いたり、騒いだり、すごく賑やかだ。その環境でも、幸は、至ってマイペースで、寝たいときに寝て、泣きたいときに泣いて。
名前を呼ぶと嬉しそうに笑いかけてくれるし、小さい手を握ると、ギュッと握り返してくれる。
くるくると表情が変わるから、一日中見ていても飽きない。
付き添いのお母さんたちともすっかり仲良くなった。
最初こそ、俺たちの関係を知り驚いていたみたいだが、そのあとは、温かい目で見守ってくれて。
葵はお母さん方の目の保養になり、涼太は、ママさんトークに参加したりと、二人とも、幸の為に、ママ同士のお付き合いを頑張ってくれた。
昨日の夜から泊まり込んで、幸の面倒をみてくれたお袋。
帰り支度を始めた。
「今朝は五時に起きて、ミルク飲んで、さっきも飲んだけど、全然寝ないのよ。お話ししたり、手足をバタつかせたり、自分の手を見詰めたりして」
「そうなんだ、幸、ねんねは?」
頭を手で支え、そっと幸を横に抱っこした。
「抱っこ随分と上手になったわね。最初の頃は、危なくて、見ていられなかったけど」
「そう。助産師さんや、看護士さんに何度も、注意されていたよね?」
「言わんでくれ」
昔の事だろ?とうに時効だ。
ぷにゅぷにゅの頬っぺたを、涼太が、軽くツンツンすると急に泣き出した。
「やっぱりママがいいってさ」
「幸、ママだって分かるの?偉いね」
幸を涼太の腕に抱っこさせると、たちまちニコニコの笑顔になった。
「涼太、本気で、ママって呼ばせる気か⁉」
「だめ?」
「ダメじゃないけど、蓮、焼きもち妬かないか?」
涼太、考え込んでしまった。
「まぁ、どっちでもいいんじゃないの。ママでも、りょうにいにでも、パパでも。あら、葵くん。今日はご機嫌みたいね。何かいいこと合ったの?」
「お義母さん、何で分かったんですか?」
葵が、爽やかな笑顔を、周囲に振り撒きながら、病室に入ってきた。
余計な事、言わんでくれ。
頼むから・・・
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