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幸の退院と、焼きもち

「買い物をしてから帰るから、先に帰ってて。しかし、貴方も大変ね」 お袋、ちらっと涼太の方に目を遣り、溜め息をついていた。 「夜までには、仲直りしてよ。秦さんも来るんだから」 「分かってる」 お袋とは、駐車場で別れた。 今晩、実家で、幸の退院祝いをすることになったのだが、問題は、涼太だ。 「涼太、機嫌直して、一緒に帰ろう」 「タクシーで帰るからいい‼」 散々ぐずって、泣き疲れたのか、幸は、涼太の腕の中でスヤスヤと穏やかな寝息を立て、熟睡中だ。 「頼むから。なぁ?」 涼太は、憮然として、頬っぺたをこれでもかと膨らませ、葵を睨み付けていた。 「あれぐらいで、焼きもち妬くな」 「あれぐらいじゃない‼あのあと、みんなの前で、真生にキスして。しかも、口にだよ。幸ちゃんわんわん泣いてるのに、何、考えてるの‼」 「涼太もすれば良かっただろ?お義母さんに、幸、頼んで。俺たちが夫婦なの、みんな知ってるし」 葵はしれっと答えると、先に運転手席に乗り込んだ。 「涼太、蓮が待ってるし・・・お願いだ、一緒に帰ろう」 「真生がそこまで言うなら」 涼太は、釈然としないまま、後部席に乗り込んでいった。 しばらく、涼太の機嫌は直りそうもない。 困った・・・。 思わず溜め息を付くと、葵が、隣でくすっと笑った。 「本音をいうと、真生に焼きもち妬いて欲しかったな。涼太みたく、頬っぺたを膨らませる真生の顔が見たかった」 って、焼きもち妬いて欲しかったんだ、俺に・・・。 すまんな、そういうのに、疎くて。 可愛いげがないのは、もともとだから、いい加減、諦めてくれ。

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