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はじめての育休中
「お兄ちゃん、お帰りなさい‼」
「何で未沙がいるんだよ」
「いて悪い?」
「悪くはないけど・・・」
涼太が、ちらちらと俺に視線を送ってきた。
俺に少しでも構って貰いたくて、五時定時で仕事を切り上げ、急いで帰ってきたのだろう。
六時まで蓮も、葵も、お義母さんもいないから、唯一二人きりになれる。たいていこの時間帯、幸は、ねんねしていることが多い。
まぁ、今日は、珍しく起きているけど。
しかも、大好きなママが帰って来たのが分かるのか、抱っこして貰いたくて、ギャン泣きだ。
「幸ちゃん、ただ今」
涼太は、俺といちゃつきたいのを我慢して、幸を笑顔で抱き上げた。
バァブゥ~
アゥ~
幸は、すぐに泣き止んで、ニッコリ笑って、もみじのような小さい手を、懸命に涼太に伸ばした。
「幸ちゃん、ママが育てたお花、見てこようか?」
「お兄ちゃん、私もいっていい?」
「いいよ。結婚式に飾るんだろ?色んな色があるから、選んだらいい」
「うん‼」
涼太は、庭で、アザレアの鉢植えを育てている。
数日後に迫った妹の結婚式に間に合わせようと、毎日三十近い鉢植えを手入れしている。
花言葉は、愛される事を知った喜び。
他に、庭には、スカイブルーセージと呼ばれる、鮮やかな青色のサルビアの鉢もある。
こっちは、確か、家族思い。絆。
涼太のお陰で、随分、花言葉に詳しくなった。
兄弟で並んで縁側に腰を下ろし、花を見つめる二人。
言葉は交わさなくても、お互い、何を考えているのか手に取るようにわかるのだろう。
そんな二人がなんだか羨ましい。
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