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男所帯に迎える可愛い紅一点、これがなかなか手強い

「真生の唇、すごく柔らかい。思っていた通りだ。俺、諦めた訳じゃないから。じゃぁ、また、明日・・・蓮君のお父さん」  今度は、額にキスをされた。 「隙あり過ぎ。少しは警戒したら?」  苦笑いしながらも、満足そうに車に戻っていった。   「まじか・・・・」  ぼそっと呟いて、しばしの間、呆然と立ち尽くした。  夜七時を回り、葵が、横島さんの娘の手を引いて帰ってきた。  さっきの事は、かろうじてバレていない。    葵が、あかりちゃんに俺や蓮、幸を紹介し、台所に立っていた涼太に引き合わせた。  瞬き一つせず、彼をじっーと観察するかの様に見上げるあかりちゃん。 何をするかと見ていたら、思いっきりあっかんべーをして、葵の後ろに隠れてしまった。 「あかりちゃん、かくれんぼ?」 涼太は怒りもせず、ニコニコの笑顔で話し掛けた。 「ご飯を食べてから、蓮くんと一緒に遊ぼうね」 しゃがみこみ、あかりちゃんを覗き込む涼太。 すると、今度はプイっとそっぽを向かれた。 それでも涼太は、優しい眼差しを彼女に向けた。 「ママ、おなかすいた」 蓮が、ご飯‼ご飯‼と騒ぎ始めた。 「じゃあ、ご飯にしようね。あかりちゃんの好きな海苔巻きを作ったから一緒に食べよう」 なかなか足が前に出ないあかりちゃんに、葵が声を掛け、ようやく座ってくれた。 今度は涼太を不思議そうに眺めた。 「男なのに何でママなの?でしょ?このおうちでは、僕が蓮くんと幸ちゃんの母親代わりなの」  へぇ~、そうなんだ。  驚いたのか目をパチパチさせるあかりちゃん。  蓮は、そんな彼女に全く興味を示さず、マイペースそのもの。断面がパンダの形の海苔巻きをを、美味しい!と連呼しながら口一杯に頬張っていた。 「腹は減っているバズだ・・・菓子パン半分しかお昼食べていないんだろう?」  蓮が食べるのをじっ~と眺め、なかなか手を出そうとしないあかりちゃんに、葵が、小皿に海苔巻きと唐揚げを乗せて、目の前に置くと、ぷいっと顔を逸らし、体を後ろ向きにし、膝を抱え込んでしまった。 「宮尾さん、菓子パン半分ってどういうこと?」 「今、世話になっている親戚の家では、ご飯を食べせて貰えない。台所を借りようとしても、お嫁さんに嫌な顔をさせるそうだ。そのくせ、金にはうるさくて、事細かく請求が来るそうだ。その日使った電気代に水道代、洗濯代に、それを干して片付けた代・・・だから、あかりも子供心に親に遠慮して、朝は車の中で菓子パン一つを半分だけ食べて幼稚園に来るんだ。うちの先生方も流石に驚いている」 「じゃあ、夜ご飯は?」 「コンビニの弁当かパンみたいだ。どんなにお腹が空いてても横島が帰って来るまで待っているそうだ。その家の家族が、賑やかに食卓を囲んでいるのを黙って聞いているそうだ。電気代が掛かるからって部屋を真っ暗にして」  涼太は涙を目にいっぱい浮かべ葵の話しを聞いていた。 「なんか昔の事・・・思い出しちゃった・・・」  涙を手で拭って、あかりちゃんの前に膝を立てて座ると、震える小さな肩をそっと抱き締めた。

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