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幸、産みの母と最初で最後の対面
そんな訳で、毎日、あかりちゃんに睨まれ続け、目も合わせて貰えなかった。
そして、その週の金曜日。
会社を休み、親父と、幸を連れて、あやかの亡骸を引き取りに上京した。蓮の面倒見は、二人に頼んだ。
「おう、佐田‼久しぶり、元気だったか?」
最寄り駅まで、俺の元同僚が迎えに来てくれた。
彼の親戚が、葬儀屋をしていて、今回、世話になることにした。
あやかの亡骸は、司法解剖を終え、警察から返された後、葬儀場に安置されていた。
幸も置いて来ようかと思ったが、どうしても母親に引き会わせたかった。
幸は、俺に抱っこされ、不思議そうに母親の顔を眺めていた。
「幸を産んでくれたママだよ。ねんねしているみたいだね」
あーうー、と言いながら、幸が手を伸ばし、あやかの頬をそっと撫でた。
あまりの冷たさに驚いたのだろうか、ふぇ~んと、半べそをかき始めた。
「幸、大丈夫だよ」
ガラガラ音の鳴るおもちゃでご機嫌を取りながら、必死であやした。
「真生、あやかさんの死因だが・・・」
「あぁ」
葬儀会社から渡された書類に目を通していた親父に声を掛けられた。
顔色がさえない。
「おそらく自宅で流産し、病院にも連れて貰えなかったのだろう。出血も相当あったはずだ。アルバイト先で倒れて、意識が戻らないうちに亡くなったそうだ。朝から晩まで働かせれ、吉井さんからの暴力も相当酷かったのだろう・・・皮下出血の跡が数えきれないくらいあったそうだ」
「吉井さんは?」
「あやかさんと胎児に対する、殺人罪で逮捕され、起訴されたそうだ」
「そうなんだ」
辛いけど、蓮や幸にいずれは話さないといけない。
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