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初めてのHalloween ②
結局悩んでボーダーのミニスカ囚人服に決めた。
足元がスースーして落ち着かない。僕はもともと体毛が薄いのだけど、やっぱりこれはいただけない……
康介が「ナイス生足!」と言ってなぜか喜んでいるけど、寒いし恥ずかしいからもうひとつの方のタイツを履くことにした。
流石にこのままの格好で街中を歩く勇気はないので、康介からコートを借りる。康介は隠すことなく楽しげにホストの格好で揚々と歩いていた。「周りも仮装した奴らばっかなんだから気にすんな」なんて言うけど、僕みたいに女装してる人なんて一人もいないんじゃないかな? 調子のいいこと言って、僕は騙されないんだからね……
僕はウィッグをかぶっているので、ホストと女性客みたいだと康介はノリノリだけど、いくらウィッグをかぶってるからって僕は男だ。男顔で女みたいな格好をして恥ずかしい。何度も僕がそう言っても康介は可愛い可愛いを連発する。
可愛いわけがない。
恥ずかしさを通り越して康介に怒りが湧いてきた。
ライブハウスに近付くと、周りには仮装をしてる人達が沢山いた。ここなら違和感もなくこの姿でもいけそうで少し安心する。
中に入ると客の数が物凄かった。僕はコートを預け、逸れてしまわないように康介と手を繋いで中に入った。
煌びやかな空間に様々な人種、モチーフの人が溢れかえっている。あんなに自分の格好が嫌だったのもすっかり忘れて僕は一気にテンションが上がってしまった。
「すごいねー! 康介見て見て! フランケンとドラキュラだよ!血がついてる 」
リアルな傷口、滴る血糊、本格的な特殊メイクに僕は感心しきり。
「康介! 康介! あっち見て! あの人全身カボチャだよ! 面白い! あれ丸くて邪魔だね〜!」
ちょっとはしゃいでウロウロしていると、康介に捕まってしまった。
「こら! そんな格好で楽しそうにうろついてたら大変だぞ! 俺が周さんに殴られる」
何が大変なの? 意味がわからない。
「あ!そうだ! ドリンク貰いに行かなきゃ」
僕はドリンクを貰っていなかったのを思い出し、康介からまた離れバーカウンターへ向かった。
周さんに酒はダメだと言われていたからジュースをもらう。康介はどこにいってしまったのか見あたらなくて、しょうがないから一人で康介を探しながら少し歩いた。
見る人見る人、皆んなが僕に手を振っている。
そういうノリなのかな?
ハロウィンパーティーなんて初めてだから、こういう勝手がよくわからない。とりあえず皆んなに倣って僕もお返しにと手を振っていると、かっこいいスーパーマンの仮装をしたお兄さんが近づいてきて僕に声をかけてきた。
「君、一人で来たの? お友達と一緒? ライブ終わったらさ、その後どっかに遊び…… 」
「あ! 周さんっ!」
スーパーマンのお兄さんの後ろから、スーパーにイケてるポリスマンが現れた。あまりの格好良さに僕は嬉しくなって全力で手を振った。
ポリスマンはスーパーマンを睨み追い払うと、僕を壁際まで強引に引っ張っていく。
「え? え?……周さん?」
両手で壁ドンされて、今にもキスしそうな勢いで顔を近づける周さんに僕はドキドキが止まらない。なんでそんなに怖い顔して僕を見るんだよ。怒ったような顔をしてるのに、この非現実的な格好で周さんがカッコ良すぎるから見惚れてしまった。
「お前、そんな可愛い格好で俺以外に愛想振りまいてんなよ! 俺だけを見てろ……」
そう言いながら、周さんに太腿を撫でられた。
「あっ……」
そんな格好って、これ周さんが着てこいって言ったんだよね? 僕悪くないよね? それにスカート短いんだから、そんなに捲り上げるようにして太腿撫でなくてもいいじゃん……
「周さんのエッチ……」
突然出入口が騒ついた。見るとスーパーモデルばりの執事姿の志音が女の子に囲まれている。
「凄いね! 志音だ! かっこい…… 」
かっこいい! と言おうとしたら、怖い顔した周さんが僕にキスをして口を塞いだ。いきなりすぎてびっくりだし、キスをしながら周さんの手が僕のお尻を弄っているからゾクゾクしてしまって焦ってしまった。
「んんっ……ん! はぁっ! 周さん!」
腕を突っぱねて周さんから逃げると、周さんはニヤリと笑って「お前が悪い」とまた怒る。ちょっと経ってから、それは周さんのヤキモチなんだとわかって嬉しくなったけど、人前でキスはやりすぎだよね……
周さんはこの後ステージがあるからと言い、控え室へ行ってしまった。
「志音も来たんだね。一人?」
いつのまにか側にいた康介が志音に話しかける。志音の横には知らない男の人。
「うんん、知り合いと一緒に来たよ」
志音の横にいる人は仮装はしていなくて普通の格好だった。でもこの人もモデルさんなのかな? 志音に引けを取らないくらいカッコよかった。
「志音のお友達? すっごいキュートだね。 さっきのキスしてた彼もかっこいいね。思いっきりタイプ…… 」
「ちょっと! 悠 さん! みんな大事な友達なんだから変な事言わないでくれる?」
気まずそうに志音は悠さんとかいう人を引っ張って奥に行ってしまった。
「そろそろ始まるから俺らもあっち行こうぜ」
僕も康介に引っ張られ、ステージの方へ向かった。
トップバッターで出てきたのはD-ASCH だ。
圭さんは 薄ピンクのうさぎの着ぐるみ。めちゃくちゃ可愛い。誰があの衣装をチョイスしたんだろうか? 圭さん、可愛いって言うと怒るくせに……あれはどう見ても可愛いよね?
修斗さんはホスト風。康介の着ているのとよく似ていてお似合いな感じ。似合いすぎだし本当にこの後ご出勤しそうな雰囲気だ。
靖史さんは、頭だけ馬をかぶってる。よくあれでドラム叩けるな……
周さんはさっき見た通りのポリスマン。やっぱり一番かっこいい。
大盛り上がりの中、数曲演奏してD-ASCH の出番が終わった。
しばらくするとメンバーみんなが楽しそうにホールの方へ戻ってきた。
D-ASCH の演奏中、実は僕は色んな人に声をかけられ連れ出されそうになっていた。その度に康介が助けてくれてたんだけど…… それを知ってか戻ってきた周さんは僕を見つけるなり抱きついてきて離れてくれない。人混みの中心部を抜け、カウンターのある端の方へ移動して僕は壁に寄り掛かる周さんに後ろから抱きつかれている状態で対バンの演奏を見るはめになってしまった。
たまにふわっと周さんが僕の頭頂部に顔を埋めたり、後ろから抱きかかえてる手が僕の胸をさわさわしたり……その度に周さんを感じてしまい、ドキドキしてしまう。客は皆んなステージに夢中だから僕らのことなんて誰も見ていないんだろうけど、それでも周さんの手がいやらしく動く度に周りが気になり焦ってしまう。
絶対周さんは そんな僕を見て笑ってるんだ……
そうしてライブが終わり、主催者からの挨拶が始まった。
このイベントで仮装して参加している客の中から、特に目立っていてナイスだった一人を「ベストコスチューム賞」として、これから発表をするらしい。
審査員はというと、今ここで説明をしている主催者。この人の独断で決まるみたいだった。
徐にドラムロールが流れ、会場が暗くなる。
「今年のベストコスチューム賞は、なんと二人です!」
そしてパッとスポットライトが当たった。
そう、僕と周さんに……
一斉に僕らは注目を浴びる。
「えっ! 何? 嘘でしょ?」
周さんに背後から抱きつかれたままの状態でいきなり晒されて僕はパニック。周さんと離れなきゃと思いジタバタするけど、周さんは御構い無しに、寧ろ満足気に抱きしめる腕に力を込める。
「はい! 終始二人で仲睦まじくイチャイチャされてたポリスマンとセクシーな囚人彼女のお二人には、それぞれ一万円分の商品券を贈呈します〜!」
商品券は凄く嬉しいけど……僕は彼女じゃないです! 男です!
会場中から割れんばかりの拍手をもらい、僕は恥ずかしさで周さんの胸に抱きつくようにして顔を隠した。
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