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圭と陽介の初めての文化祭③
里佳さんと楽しく立ち話をしていたら、着替え終わった圭ちゃんが廊下に出てきた。
あれ? まだ不機嫌そうな顔……
「なんだよ。陽介、里佳と仲いいんだな。もう! 今日は最悪! あんな格好させられるわ、知らない奴に尻揉まれるわ……」
怒りながら、ぷぅっと圭ちゃんの頬が膨らんだ。
だからそういうのが可愛いんだってば。
里佳さんはそんな圭ちゃんをポカンと見ている。
「ニャンコは悪かったよ、ごめんね。てかさ、さっきから陽介君の前だと圭が凄い可愛く見えるのは気のせい?」
俺の前と学校だと雰囲気違うのかな? 言われた圭ちゃん、真っ赤になっちゃった。
「……可愛くなんかないだろ! 里佳うるさい!」
「まあまあ、あ! 圭、これからライブでしょ? 陽介君は私が案内するし、そろそろ準備行っといでよ。さっき靖史が迎えに来てたよ」
時計を見るともうそんな時間だ。もうちょっと一緒に居たかったけどしょうがない。
「圭ちゃん、頑張ってね。俺ちゃんと見てるから」
俺がそう言うと、圭ちゃんは小さく「うん」と答えて体育館の方へ走って行った。
俺は里佳さんに案内されて会場となる体育館に向かいながら、幾つかの店も見学した。その途中で純平を見つけ声をかけた。
「なんだよ陽介! また可愛い子ナンパしてんの?」
いやいや、圭ちゃんいるのにナンパとかあり得ないから。変な言いがかりはやめてくれ。今までの事を純平に説明しながら、三人で体育館へ向かった。
体育館につくと、人が沢山溢れかえってる。
驚いた!
里佳さんが「前の方まで行くか?」と聞いてくれたけど、後ろからでも見えるからここでいいと伝えた。
「さっきのニャンコ姿も相当やばかったけど、こんな沢山の人に見られて……圭君もカッコいいから陽介心配だね」
呑気に純平が大きな声で俺に話す。
「え? 心配って……?」
すかさず何かに勘付いて里佳さんが俺の顔を覗き込んできた。
純平のやつ……まぁ、聞かれないから言わないだけで、俺は別に隠してるわけじゃないんだけど。
「やっぱり圭の大切な人って……」
「うん、俺の一番大事な人は圭ちゃんだよ」
そう答えると里佳さんは一瞬黙ってしまったけど、にっこりと笑ってくれた。
「やっぱりね。それで納得いったわ。どうりであんな可愛い顔してたんだわ」
里佳さんはそう言ってバンバンと俺の背中を叩いた。
「悪い虫がつかないように、私が見張っといてやるから安心しな」
……やっぱりこの人、男らしいね。それに偏見もないみたいでよかった。
少しすると照明が落ち、静かになる。ステージに照明があたり、圭ちゃん達が登場した。
今日は全部で五曲やると聞いている。ノリのいい、誰でも知ってるようなメジャーなバンドのコピーを三曲と、オリジナルが二曲。オリジナルは作詞が靖史、作曲は圭ちゃんといった具合で、靖史と二人で作ったんだそう。
ワクワクしていると徐に演奏が始まった。
………凄い!
素人の俺だってちゃんとわかる。上手い! 圭ちゃんのギターがヤバい! ギターを弾きながら歌ってる圭ちゃんがかっこよすぎる。
ノリのいい曲に、体育館が揺れてるんじゃないかってくらい、みんな総立ちで大盛り上がり。まわりが大盛り上がりでいる中、反対に俺は一人 圭ちゃん達に見惚れて動けずにいた。
あっという間に四曲が終わり、最後の曲──
これまでのノリノリの曲とうって変わって、静かな出だし……しっとりとしたバラードだった。
さっきまでの盛り上がりがスッと落ち着き、みんなが静かに圭ちゃんを見つめる。
ギターに合わせ、圭ちゃんが歌い出した。
あ…… これラブソング。この歌詞……
そう言えば、この最後の曲も靖史が作詞したって言っていた。
圭ちゃんと初めて出会った時から今までの切ない思い、嬉しかったり、悩んだり、様々な感情が俺の中で蘇った……
ステージの上の圭ちゃんと目が合う。ずっと俺を見つめて圭ちゃんが歌ってる。
あぁ……俺、圭ちゃん大好きだ。愛してる……ずっとこれは変わらない。
不意にトントンと肩を叩かれた。
横を見ると、里佳さんが俺にハンカチを差し出していた。
俺……いつの間に泣いてたんだろ。
ダメだなぁ。
圭ちゃん惚れ直しちゃったよ。
靖史、最高の唄をありがとう……
最後の曲が終わり、会場がシーンとなる。少し間があいてから、ドッと歓声が上がった。
拍手喝采──
大歓声の中、圭ちゃん達はステージを後にした。
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